大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1743号 判決 1997年11月18日

控訴人(原告) 日本臓器製薬株式会社

被控訴人(被告) 株式会社フジモト・ダイアグノスティックス

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、別紙目録(三)記載の方法を用いて同目録(一)記載の抽出液を製造してはならない。

2  被控訴人は、別紙目録(三)記載の方法を用いて同目録(二)記載の製剤を製造し、販売し、販売のために宣伝、広告してはならない。

3  被控訴人は、別紙目録(二)記載の製剤について、健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げをせよ。

4  被控訴人は、その所有する別紙目録(一)記載の抽出液及び同目録(二)記載の製剤を廃棄せよ。

5  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、別紙目録(一)記載の抽出液を製造し、別紙目録(二)記載の製剤を製造し、該製剤を販売し、かつ、これらを宣伝広告してはならない。

3  被控訴人は、別紙目録(一)記載の抽出液及び別紙目録(二)記載の製剤について薬事法に基づいて取得している各製造承認並びに別紙目録(二)記載の製剤について健康保険法に基づいて収載を受けている薬価基準をそれぞれ取り下げねばならない。

4  被控訴人は、別紙目録(一)記載の抽出液及び別紙目録(二)記載の製剤について薬事法に基づいて取得している各製造承認を被控訴人以外の第三者に承継せしめ、又は譲渡してはならない。

5  被控訴人は、被控訴人の所有する別紙目録(一)記載の抽出液及び別紙目録(二)記載の製剤を廃棄せねばならない。

6  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

7  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件の事案の概要は次のとおりである。すなわち、

控訴人は、控訴人医薬品(後記一2(一)、14頁〔知裁集二九巻四号一〇七三頁一行目〕)や被控訴人医薬品(後記一2(二)、15頁〔同上、一〇七三頁一二行目〕)のようなワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法としては、現在までに本件特許方法(後記一1(一)、9頁〔同上、一〇七〇頁一六行目〕)が唯一知られているだけであるところ、被控訴人主張のイ号方法(後記一4(二)、20頁〔同上、一〇七五頁一七行目〕)は、カリクレイン・キニン系の反応において、リマ豆トリプシンインヒビター(LBTI)(以下単に「LBTI」と略記することがある。)のような生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤を用いていないため、カリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定法ではなく、したがって、本件特許方法のようなカリクレィン様物質産生阻害活性の定量的測定法と同等又はそれ以上の方法としてそれに代替し得る方法とはなり得ないから、被控訴人医薬品が控訴人医薬品と同一の医薬品である後発医薬品として厚生大臣から医薬品製造承認を受けた以上、被控訴人医薬品の製造承認申請書中の「規格及び試験方法」の欄にはカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として本件特許方法に該当する控訴人主張のイ号方法(後記一4(一)、19頁〔同上、一〇七五頁七行目〕)が記載されているに相違なく、現実に被控訴人が業として実施している被控訴人医薬品の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の試験方法も控訴人主張のイ号方法以外にはあり得ないと主張し、これらのことを前提にした上、

<1>  被控訴人が被控訴人医薬品を製造販売すれば必然的に本件特許方法(後記一1(一)、9頁〔同上、一〇七〇頁一六行目〕)を実施することになり本件特許権を侵害することになると主張して、別紙目録(一)記載の抽出液の製造、別紙目録(二)記載の製剤の製造、該製剤の販売及びそれらの物の宣伝広告の停止を求めるとともに、

<2>  被控訴人が控訴人主張のイ号方法を医薬品製造承認申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載して被控訴人医薬品につき厚生大臣の製造承認を受けたことは、本件特許方法に該当する控訴人主張のイ号方法を実施する準備行為であるから除去されなければならず、健康保険法に基づく薬価基準収載によって取得している被控訴人医薬品の製造 販売に関する資格を喪失させる必要があると主張して、本件特許権の侵害の予防のため特許法一〇〇条二項に基づき、被控訴人が被控訴人医薬品について薬事法に基づいて取得している各製造承認及び別紙目録(二)記載の製剤について健康保険法に基づいて収載を受けている薬価基準の各取下げを、

<3>  被控訴人が被控訴人医薬品の製造承認によって得ている地位(それは本件特許方法に該当する「規格及び試験方法」の定めを含むものである。)を第三者に承継せしめ、又は譲渡すること(薬事法施行規則二一条の六参照)により本件特許権侵害が更に拡散することを防止する必要があると主張して、右承継、譲渡の禁止を、

<4>  被控訴人の所有する被控訴人医薬品の廃棄をそれぞれ求めたものである。

一  前提となる事実

1 控訴人の有する特許権

(一) 控訴人は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の特許発明を「本件発明」又は「本件特許方法」という。)を有している(甲一、二、一九)。

発明の名称   生理活性物質測定法

出願日     昭和六二年九月八日(特願昭六二-二二五九五九号)

出願公告日   平成四年三月一一日(特公平四-一四〇〇〇号)

登録日     平成五年一月一九日

登録番号    第一七二五七四七号

特許請求の範囲 別紙特許公報の該当欄記載のとおり。

(二) 本件発明の概要(本件発明の構成要件については次項において改めて判示する。)本件発明の明細書の記載(「特許請求の範囲」、「発明の詳細な説明」)を総合すると、以下のとおりであると認められる(甲一)。

(1)  カリクレインは、種々の動物の血漿中及び組織に広汎に存在する蛋白質を分解する触媒機能を有する酵素蛋白質の一種であるが、動物の血漿中でこのカリクレインが生成する過程は一連の酵素反応(カリクレイン・キニン系)である。すなわち、動物の血漿中にカオリン等の血液凝固第XII 因子活性化剤を添加すると、血漿中に存在する血液凝固第XII因子(ハーゲマン因子FXII)は活性化されて活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)に変化する。この活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)は、同じく血漿中に存在するプレカリクレインに作用してこれをカリクレインに変換し、更にこのカリクレインが血漿中の高分子キニノーゲンに作用してノナペプチドであるブラジキニンを遊離させる。そして、この遊離されたブラジキニンが炎症、痛み及びアラキドン酸カスケードに対する作用を引き起こす。

(2)  本件発明における反応系は、動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質から成る溶液を混合反応させた後、カリクレインの生成を停止させるために、反応時間と生成したカリクレイン量(カリクレイン活性)との間に実質的に直線的な関係が成立する時間(例えば、反応開始から一五~三〇分間)内、すなわち、カリクレイン活性が飽和してしまう時間前の直線部分で、血漿中に残存している活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)の活性のみを特異的に阻害して余分のカリクレインが生成しないようにし、かつ、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響なLBTIのような阻害剤を添加し(以上、第一次反応、次いで、第一次反応液に合成基質を含む発色液を混和して反応させる(以上、第二次反応)という二段階の反応により構成されている。そして、第一次反応及び第二次反応は一連の酵素反応に基づくものであり、これら酵素反応系における酵素量は物質量として表わされるものではなく、単位時間当たりに当該酵素によって生成される反応生成物量(酵素活性)として測定されるものであって、結局、本件発明における被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定は、第一次反応で生成したカリクレインを第二次反応において定量することにより行うものとされる。

(三) 本件発明の構成要件

本件発明は次の構成要件から成るものであると認めるのが相当である(甲一)。

<1>  動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質から成る溶液を混合反応させ、

<2> 次いで、該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、

<3>  生成したカリクレインを定量すること

<4>  を特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。

2(一) 控訴人のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする製剤(注射剤)の医薬品製造承認及び製造販売

控訴人は、別紙目録(一)記載の抽出液及びそれを有効成分とする別紙目録(二)記載の製剤(注射剤)について、昭和二八年九月五日、承認番号(阪薬)第八一三四号により厚生大臣から薬事法に基づく製造承認を受け、昭和五一年九月一日健康保険法に基づく薬価基準の収載を受け、同年一一月一日から右抽出液を製造して、一管三ミリリットル中右抽出液三・六ノイロトロピン単位を含有する水性注射液として製剤の上、「ノイロトロピン特号3cc」の商標の下に鎮痛・鎮静・抗アレルギー剤として販売している(以下、右抽出液及び製剤を一括して「控訴人医薬品」という。)。控訴人は、昭和六二年一一月二〇日付で厚生大臣に対し、控訴人医薬品について薬事法一四条四項の規定により医薬品製造承認事項一部変更承認を申請し(以下「一部変更申請」という。)、平成四年五月一一日付で厚生大臣から承認を受けた。

(甲一七、乙一〇、一七、弁論の全趣旨)

(二) 被控訴人のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする製剤(注射剤)の医薬品製造承認及び製造販売

被控訴人は、別紙目録(一)記載の抽出液(FN原液「フジモト」)及びそれを有効成分とする別紙目録(二)記載の製剤(注射剤)について、昭和六二年一一月一三日付で厚生大臣に対し、先発医薬品である控訴人医薬品と同一の医薬品である後発医薬品として、薬事法一四条一項の規定により医薬品製造承認申請をし、平成四年二月二一日、厚生大臣から承認を受け、同年七月一〇日付で右製剤(注射剤。商品名「ローズモルゲン注」)について、健康保険法に基づく薬価基準の収載を受け(以上の点については争いがない。)、同年一〇月上旬からこれを販売している(弁論の全趣旨。以下、右抽出液及び製剤を一括して「被控訴人医薬品」という。)。

3 医薬品の規格及び試験方法に関する薬事法上の規制と控訴人医薬品及び被控訴人医薬品におけるカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の実施

(一)  医薬品製造業者は、厚生大臣に対し医薬品の製造承認を申請する際には、薬事法一四条一項、薬事法施行規則一七条に基づき、様式第十(一)による医薬品製造承認申請書に、申請に係る医薬品の「規格及び試験方法」を記載することが義務づけられており、厚生大臣から製造承認が与えられるときは、医薬品製造承認書の一部として右医薬品製造承認申請書が添付されることになる。この医薬品製造承認申請書の「規格及び試験方法」欄の記載方法については、「医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」(昭和五五年五月三〇日薬審第七一八号・都道府県衛生主管部〔局〕長あて・厚生省薬務局審査課長、同生物製剤課長通知)3(4) ア8により、「確認試験」の項目が設定されなければならないものとされている(甲七の二の四一八頁)。

(二)  別紙目録(二)記載の製剤に有効成分として含まれている別紙目録(一)記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液は生体の皮膚組織から抽出された成分未詳の天然物質であり、化学合成医薬品のように化学構造によってそれを構成している化合物を特定することができないから、控訴人及び被控訴人は、控訴人医薬品、被控訴人医薬品の製造承認を申請する際、右抽出液の品質規格の検定のために医薬品製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に多項目にわたる規格及び試験方法のうちの一項目としてカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法を記載することを法律上義務付けられており、現実に業として控訴人医薬品、被控訴人医薬品を製造する際にも確認試験を実施している(争いがない。)。

4 被控訴人が現実に業として実施している被控訴人医薬品のカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法

被控訴人が被控訴人医薬品の品質規格の検定のために、多項目にわたる規格及び試験方法のうちの一項目としてカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を実施していることは前示のとおり当事者間に争いがないところ、当事者双方は、その方法(以下「イ号方法」という。)の具体的内容につき、次のとおり主張している。

(一)  控訴人主張のイ号方法

控訴人が主張するイ号方法の具体的な内容は別紙目録(三)記載のとおりであり、これは以下のとおり分説するのが相当である。

<1> ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第XII 因子活性化剤を加えて反応させた後、

<2> LBTI等の活性型血液凝固第XII 因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ、

<3>  生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する

<4>  前記被検物質のカリクレイン産生阻害能測定方法。

(二) 被控訴人主張のイ号方法

被控訴人が主張するイ号方法の具体的な内容は別紙目録(四)記載のとおりであり、これは同目録のA~Eのとおり分説するのが相当である。

控訴人主張のイ号方法と被控訴人主張のイ号方法とを対比すると、別表1のとおりになる。

二 争点及び当事者の主張

本件の争点は、被控訴人が被控訴人医薬品の品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として、本件特許方法に該当するところの控訴人主張のイ号方法を実施しているか否かという点にあるが、この点に関する当事者の具体的主張の要旨は次のとおりである。

1  控訴人の主張

(一)(1) (本件特許方法と控訴人医薬品の確認試験の方法)

控訴人は、控訴人医薬品の一部変更申請に当たり、本件特許方法によるカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法を適用した試験データを添付し、本件特許方法により定量的にカリクレイン様物質産生阻害活性を測定する方法を一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載して申請し、厚生大臣から承認を受けた(甲一五、一七)。したがって、一部変更申請書中に記載の控訴人医薬品の確認試験の方法は本件特許方法と同じである。

(2) (確認試験の方法の同一性)

被控訴人医薬品の確認試験の方法は、薬事法上、控訴人医薬品の確認試験の方法との同一性が要求される。

(3) (本件特許方法以外にカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法は存在しないこと)

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする医薬品の「規格及び試験方法」としては、控訴人医薬品の一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載した方法すなわち本件特許方法以外には、その「力価規格」の決定を可能とする試験方法(言い換えれば、カリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法)は存在しない。すなわち、先発医薬品である控訴人医薬品の一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載した方法と「同等又はそれ以上の精度をもつ試験方法」は他に存在しない。したがって、後発医薬品である被控訴人医薬品は、その製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」が先発医薬品である控訴人医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と同一でなければ、製造承認を受けることができない。

(4) (本件特許方法の実施)

控訴人医薬品について定められているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法と同等又は同等以上と認められる右阻害活性の測定方法はほかにないのであるから、被控訴人は、控訴人医薬品の製造承認事項として定められているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法を実施するほかなく、したがって、現実にこれを業として実施しているものとみなければならない。

(二)(1) 控訴人の実施している方法(すなわち、本件特許方法)において、血漿カリクレイン生成に対する薬物(カリクレイン生成阻害物質。被検物質。)の阻害効果を評価する上で最も重要な点は次の点である。

「一次反応において、生成した血漿カリクレインの量と反応時間との間に直線関係が存在する時間内にLBTIのようなFXIIaに対する特異的阻害剤を反応液に加えて、生成した血漿カリクレインの活性に変化を与えることなくFXIIaの活性を阻害して、その後の血漿カリクレインの生成を止めることにより、生成されたカリクレインの活性を保持する点」

そして、本件特許方法は右の点を構成として有することにより、薬物のカリクレイン生成阻害能の定量を可能にするものである。

(2) また、控訴人実施の方法は、被検物質添加群とともに比較の対照としての被検物質非添加群についての測定を行い、両者のカリクレイン生成量についての測定値の差をもって被検物質の阻害能の測定値とすることにより、測定値の変動誤差を償却し、反応自体の信頼性を保証して、正確な測定を可能にしている。

(3) これに対し、被控訴人主張のイ号方法は、LBTIのような特異的阻害剤を使用していない。

また、被控訴人主張のイ号方法は、被検物質非添加群についての測定を行うことに代えて「カリジノゲナーゼ標準溶液」なる基準を設定しているが、これは被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定の比較対照とはなり得ないものである。

したがって、被控訴人主張のイ号方法は、定量的測定法ではなく、控訴人実施の方法と同等程度以上の試験方法ではない。

(4) なお、被控訴人は、当審において新たに「被控訴人主張のイ号方法においても被検物質非添加群の吸光度は測定されている」との主張をし、カリクレイン生成阻害能の定量には被検物質を加えない条件で生成したカリクレイン活性を測定しなければならないことについては被控訴人もこれを認めるに至ったものの、被控訴人主張のイ号方法(別紙目録(四)には「被検物質を加えない条件で生成したカリクレイン活性の測定」を行うことについては記載がないし、被控訴人主張のイ号方法の実施状況を見学したとする報告書(乙三五ないし三七)をみても被検物質非添加群についての測定が実施されている旨の記載がないので、被控訴人のイ号方法においては被検物質非添加群についての測定は行われていないとみるべきである。

(5) 右に述べたとおりであるから、被控訴人主張のイ号方法は、控訴人実施の方法(本件特許方法)と同等以上の試験方法ではない。

そして、厚生大臣が、先発医薬品と同等又はそれ以上の厳密な試験方法が要求されることになる後発医薬品たる被控訴人医薬品の製造承認に当たって、カリクレイン様物質産生阻害活性の定量的な測定ができないような被控訴人主張のイ号方法をその試験方法として認めるとは考えられない。

したがって、被控訴人が製造承認書に記載しかつ実際に実施している試験方法は、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として現在までに知られている唯一の方法である本件特許方法以外にはない。

2  被控訴人の主張

(一) 被控訴人主張のイ号方法は、乙二(大出博功ら「血中カリクレインの簡易測定法」)記載の方法を応用したものであって、本件特許方法で必須とされるLBTIのような活性型血液凝固第XII 因子に対する特異的阻害剤を使用していない。

(二) 控訴人は、LBTIのような阻害剤を使用しなければ、一定反応時間後においてもカリクレイン生成反応が停止せず連続して進行することとなり、測定点におけるカリクレインの生成量を特定することができない旨主張する。

しかし、一般に行われているカリクレイン測定法においても、カリクレインを生成させる条件とカリクレイン量の測定条件等を調整して副反応の発生を最小としており、実際には、二次反応中に生成するカリクレインの量は実験目的から無視できるものとなり、場合によっては補正により処理されており、特異的阻害剤を用いることなしにカリクレイン測定を実施する方法が一般的方法として広く行われている。

第二次反応中にカリクレインの生成があるとしても、また、活性型血液凝固第XII 因子による合成基質の分解が生じるとしても、第一次反応から第二次反応への移行を直ちに行うことによりその影響を無視できるのである。

また、被控訴人主張のイ号方法で使用される合成基質(D-Pro-Phe-Arg-pNA s-2302)は、他の合成基質と比較してカリクレインに対する特異性が極めて高く、活性型血液凝固第XII 因子による影響は他の合成基質よりも僅少であり、右因子の存在が被控訴人主張のイ号方法による測定を不可能ならしめることはない。

(三) 〔当審における新主張〕

被控訴人は、被控訴人主張のイ号方法を実施するに際し、その前提として「被検物質非添加群」の吸光度を測定している。

被控訴人主張のイ号方法では、被検物質非添加の状態で第二次反応後の吸光度が〇・四前後の一定の値になるように測定毎に血漿の希釈倍率を決定している。これはまさしく、「被検物質非添加群の測定」にほかならず、被検物質非添加群の吸光度測定値は約〇・四であることが確認されている。

第三争点に対する判断

〔緒言〕

本件の基本的争点は、前記第二の二記載のとおり、被控訴人が被控訴人医薬品の品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として、本件特許方法に該当するところの控訴人主張のイ号方法を実施しているか否かという点にあるところ、右実施の事実の有無につき、まず、控訴人医薬品の一部変更申請における確認試験の方法及び右方法と本件特許方法との関係を判断、確定した上で、後記二(被控訴人は被控訴人主張のイ号方法を実施しているか。)、三(被控訴人医薬品における本件特許方法の実施の有無)の各項目の順序に従い検討を加えていくこととする。

一  本件特許方法と控訴人医薬品(「ノイロトロピン特号3cc」)の確認試験の方法

1 控訴人医薬品の一部変更申請

控訴人は、昭和六二年一一月二〇日、控訴人医薬品について一部変更申請をするに当たり、本件特許方法によるカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法を適用した試験データを添付し、「規格及び試験方法」欄中の「確認試験」の項目に本件特許方法を記載(すなわち、次項にいう「方法A」を記載)し、平成四年五月一一日、厚生大臣からその承認を得た(甲一五、一七)。

2 控訴人医薬品に係る製造承認事項一部変更承認書(甲一七)の「規格及び試験方法」の項の「確認試験(5) 」に記載されている確認試験の方法(以下「方法A」という。)の内容及び技術的特徴

(一) 「方法A」の試験方法の内容は、別表2左欄記載のとおりである(甲一七別紙(4) )。

(二) 「方法A」の技術的特徴

(1)  「方法A」と豊巻芳男ら「血漿カリクレイン様物質産生阻害能を評価する in vitro 測定法」(基礎と臨床第二〇巻第一七号-昭和六一年一二月)(甲三添付資料4、甲六八別紙3)に記載されている試験方法(以下「豊巻らの試験方法」という。)との対比

イ 両方法を対比した内容は、別表2記載のとおりである。

ロ 同表記載の「方法A」と豊巻らの試験方法とを対比・検討すると、両者は被検物質を添加した試料溶液を所定時間反応させた後、LBTIを添加し、次いでこの反応液と合成基質溶液とを混和反応させて、反応液の吸光度を測定し、この吸光度と同様にして得た対照液についての吸光度との吸光度差を被検物質のカリクレイン阻害活性能の測定値としている点では同じであり、ただ、前者は得られた吸光度差が標準溶液の吸光度よりも大きい場合を合格品としているのに対し、後者はこの吸光度差から被検物質のカリクレイン生成阻害能を定量している点で異なる。

しかし、両者とも試料溶液の吸光度と対照液の吸光度との吸光度差をもって被検物質のカリクレイン生成阻害能を定量している点では測定方法としては同一のものである。

(2)  右のとおり、「方法A」は豊巻らの試験方法と同一のものであると認められる(なお、甲三によれば、本件特許方法は前記豊巻らの論文に記載された血漿カリクレイン様物質産生阻害能の測定方法を基礎として出願されたものであることが認められる。)ところ、豊巻らの試験方法の特徴(すなわち、「方法A」の特徴)は次の点にあると認められる。

イ 被検物質溶液にヒト血漿とカオリンを混和してカリクレイン様活性を惹起しカリクレイン様活性が時間経過とともに直線的に増加する一定時間内にLBTIを添加することによってそれ以後のカリクレイン様物質の産生を停止させる点

ロ この反応液と合成基質溶液とを混和反応させて、反応液の吸光度を測定し、この吸光度と同様にして得た対照液についての吸光度との吸光度差を被検薬剤のカリクレイン阻害活性能の測定値とする点

(3)  そして、「方法A」は右の各特徴を併せ持つことによって、次の理由により被検物質のカリクレイン生成阻害能を定量することができるものと認められる(甲二二、三二、三四、三七ないし三九、四五、四九、五三、五四、六三、六八、弁論の全趣旨)。

イ 酵素活性は、酵素の反応速度、すなわち、酵素が基質に作用する際の単位時間当たりの反応生成物の産生量で示される。したがって、酵素の活性を正確に求めるためには、測定反応時間内において酵素の反応速度が一定(反応生成物量の増加率が一定)であるという条件、すなわち、反応時間の経過に伴って反応生成物の量が直線的に増加する条件の下で測定を行うことが必須要件となる。

ロ 「方法A」について言えば、ヒト血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤であるカオリン懸濁物、電解質、被検物質からなる溶液を混合反応させた場合、加えられる「血液凝固第XII 因子活性化剤」、血漿中の「血液凝固第XII 因子」、「プレカリクレイン」の量は共に一定であるから、「カリクレイン」の生成量は、反応の初期においては一定の反応速度で直線的に上昇(増加)する。しかし、反応の進行に伴い、系中の変化を受けるべき物質(プレカリクレイン)の量が消費されて減少してくると、反応は次第に頭打ちになって生成量は曲線を描くことになり、この曲線部分は、この系における「カリクレイン」の反応時間に応じて正比例した生成量を正しく示すことにはならない。

ハ 反応時間と生成量との正比例的相関関係を正しく示しているのは反応時間と生成量との間に直線関係が成立している部分であって、この部分のカリクレイン生成量を対照基準(被検物質を加えない基準値)とし、被検物質がこの生成をいかほど抑制するかを測定することによって「被検物質のカリクレイン生成阻害能」が定量的に測定できる。

ニ そして、この測定点におけるカリクレインの生成量を正確に特定(固定)するためには、測定点における生成済みカリクレインの量及びその活性には影響を与えることなく、カリクレインの生成反応をそれ以後確実に停止しなければならない。

ホ この目的のためには、プレカリクレインに作用してカリクレインを産生させる活性化された血液凝固第XII 因子の効力を特異的に阻害するが、生成されたカリクレインの量(活性)には影響を与えないLBTIのような特異的阻害剤を測定点において反応系に添加しなければならない。

ヘ このような阻害剤を用いなければ、測定時点においても、カリクレイン生成反応は停止せず、カリクレイン生成反応が連続して進行することとなり、測定時点におけるカリクレインの生成量を特定することができなくなる。

ましてや、定量的測定法に必須の前提条件たる「カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間」がいつからいつまでかということを確認することはできない。

ト 被検物質非添加群についても吸光度を測定し、比較対照の基準値とし、これと被検物質添加群の測定値との差をカリクレイン生成阻害能に対応する測定値としているので、正確な測定ができる。

(4) イ ところで、被控訴人は、「方法A」(本件特許方法)では阻害活性の正確な測定はできないとして、乙四四(国立循環器病センター研究所理学博士加藤久雄<以下「加藤」という。>作成「意見書」)を提出している。右意見書の具体的内容としては、次に摘記するような事項が述べられている。

a プレカリクレインのカリクレインへの変換(活性化)を触媒する代表的な因子としては活性型血液凝固第XII 因子(XII a因子)の外にも、複数の因子が関連している。

b この測定系におけるLBTIの使用目的は、単にXII a因子のみを阻害することに置かれており、他のカリクレイン量を変動させる複数の要因は排除できない。

c LBTIはXII a因子の特異的阻害剤としてはあまり優れたものではなく、15mg/ml以上の高濃度ではXII a因子を阻害するが、血漿カリクレイン活性をも有意に阻害するので、その特異性に問題がある。

d LBTIのロット毎の阻害効果にバラツキを示す場合があり、LBTIの使用がむしろ誤差の要因になると考えられる。

LBTIではなく、優れた阻害特異性が一九八〇年に既に報告されていたトウモロコシ・トリプシンインヒビター(CTI)を選択すべきであった。

ロ 右意見書について、ニューヨーク州立大学医学部内科学、アレン・P・カプラン教授(以下「カプラン教授」という。)は次のような意見を述べている(甲六八)

a 希釈していない血漿の場合は、種々の内因性因子の影響を無視することができないが、豊巻らが使用している血漿希釈の範囲では、これらの内因性因子の影響を無視できることがはっきりしている(前記豊巻らの論文八八九一頁左欄二-五行、本件明細書三頁右欄七-一〇行)。

b 血漿を二〇分の一以上に希釈すると血漿中の阻害物質の作用は検出できない。

c 仮に他の未知の血漿蛋白質が何らかの影響を有していたとしても、被検物質を添加した群と非添加の対照群の吸光度の差を求めることによってそれらの影響は相殺される(前記豊巻らの論文左欄八八九三頁七-三六行)。

d 血漿カリクレイン活性に対するLBTIの直接的阻害作用について

「方法A」(本件特許発明の方法によるカリクレイン産生阻害能の測定方法)において使用されているLBTIの濃度では、FXIIaは阻害されるが、血漿カリクレイン活性には影響を及ぼさないことが確認されている(前記豊巻らの論文八八九一頁五-九行、本件明細書四頁左欄二三-二九行)。

e LBTIの品質についてのロット間のばらつきとコーン・トリプシン・インヒビターあるいはCTIの優位性について

<1> 通常、各実験のすべての測定には同一ロットのLBTIが用いられる。

したがって、ロット間のばらつきは結果に対して影響を及ぼすことはない。

<2> 前記豊巻らの論文では、LBTIは終濃度約4mg/mlでFXIIa活性をほぼ完全に阻害することが示されている(前記豊巻らの論文八八九一頁左欄五-七行)。

被検物質の阻害能を測定するために実際用いられているLBTIの終濃度は、15mg/mlである(前記豊巻らの論文八八九〇頁左欄下から四-二行、本件明細書五頁右欄三三-三八行、五頁左欄七-二七行)。

<3> これらのデータは「方法A」で用いられているLBTIの濃度が、十分な安全閾を見込んでFXIIa活性を完全に阻害するために必要な濃度の三倍以上であることを示している。

したがって、仮にLBTIの製造ロットが同一でないとしても問題がない。

<4> LBTIは市販されており、その品質はメーカーにより規格化されている。

LBTIの代替品としてのCTIの使用も本件特許方法に開示されている。

いずれか一方が使用される限り、LBTIとCTIの選択が「方法A」を用いて得られる結果に影響を及ぼすことはない。

ハ 判断

乙四四においては、何らの実験を行うことなく、「方法A」では阻害活性の正確な測定ができないとしている。しかしながら、この結論については、カプラン教授が右のとおり逐一反論しており、右反論は合理的な根拠に基づいていると考えられる。また、乙四四は「方法A」の正確性(精度)を問題にしているが、仮に「方法A」が精度的に完全なものでないとしても、「方法A」は既に控訴人医薬品の確認試験の方法として承認されているのであるから、むしろ本件において問題とされるべきは、被控訴人主張のイ号方法が「方法A」と同等程度以上の精度を持つものであるか否かということであり、ここで「方法A」自体の精度を論ずることに格別の意義を見出すことはできない。したがって、乙四四の前記意見は採用することができない。

3 確認試験の意義と控訴人医薬品における本件特許方法の実施

(一) 財団法人日本公定書協会編「医薬品製造指針(一九九一年版)」(平成三年九月一七日株式会社薬業時報社発行)第II部第1章「7 承認申請書の記載要領」の「(8) 規格及び試験方法欄」には、規格及び試験方法の意義として、「医薬品が兼ね備えるべき要件として、有効性、安全性及び品質の確保の3つがある。つまり、いかに薬効に優れ、安全性が確認された医薬品であろうとも、実際に製造され、流通するとき一定の品質を保つことができないのであれば、その医薬品は医薬品としての存在意義が失われることはもとより、むしろ有害な事態を惹起することになると考えられる。このように医薬品において品質の確保はきわめて重要なもののひとつであり、規格及び試験方法はそれを規定するものとして重要視される。したがって、承認審査の際、規格及び試験方法は厳重に審査され、また、承認後製造される医薬品の品質は承認された内容と完全に合致することが法的に義務づけられている。したがって、承認内容に違反するものがあれば、それは不良医薬品として法的処分を受けることになる。」(甲一一の四の六四頁)との記載があり、また、確認試験について、同試験は、当該医薬品が目的物であるか否かを確認するために必要な試験であり、原則としてすべての有効成分について記載することが必要であるとされている(甲一一の四の七二頁)。

確認試験とは、「医薬品を構成する物質又は医薬品中に含有されている主成分などについて、それぞれの特異な反応を用いて特性に応じて試験し、その医薬品の同定に役だつ試験」(乙一六の一)と定義することもできる。

4 控訴人医薬品に係る製造承認事項一部変更承認書(甲一七)には「方法A」を含めて五種類(「方法A」以外のものとして、<1>日局・1アミノ酸クロマトグラフ法による〔アミノ酸〕<2>日局・12吸光度測定法〔紫外部吸収物質、λmax268~272nm 〕、<3>モリブデン酸アンモニウム/1―アミノ―2―ナフトール―4―スルホン酸〔リン〕、<4>HPLC法(オクタデシルシリル―シリカゲル/0.01Mリン酸二水素カリウム・pH5.5)〔核酸塩基〕)の確認試験が記載されている。そして、乙一七(「ノイロトロピン特号3cc」の医薬品インタビューフォーム)に「本剤は、ワクシニアウイルスを接種した家兎炎症皮膚より抽出し、ただちに製剤するものであって、原薬を保存することがないので安定性の試験は実施できないが、ロットごとに製造工程中で原薬確認を行っている。」(三頁)と記載されていることからすると、右にいう原薬確認を行うには、常に必ず「方法A」を含めた前記五種類の確認試験を行わなければならず、これを行う限り必然的に本件特許方法を実施することになる。

二  被控訴人は被控訴人主張のイ号方法を実施しているか

1 被控訴人が被控訴人医薬品について実施している確認試験の方法が薬事法上具備すべき要件

(一) 後発医薬品の審査(先発医薬品の確認試験の方法との同一性)について

(1)  薬事法一四条四項(但し、平成六年六月二九日法律第五〇号による改正前のもの)は、医薬品等の製造の承認の審査について、「第二項の規定による審査においては、当該品目に係る申請内容及び前項に規定する資料に基づき、当該品目の品質、有効性及び安全性に関する調査(既に製造又は輸入の承認を与えられている品目との成分、分量、用法、用量、効能、効果等の同一性に関する調査を含む。)を行うものとする。」と規定している。

(2)  後発医薬品は先発医薬品との間に医薬品としての「同一性」がなければならないが、後発医薬品と先発医薬品との同一性調査は、申請内容である成分及び分量又は本質、製造方法、用法及び用量、効能又は効果、貯蔵方法及び有効期間、規格及び試験方法の各々が同一性を有するか否かを調査することによって行われる。そして、右のうち「規格及び試験方法」(「確認試験」も含まれる。)については薬事行政上「同等又はそれ以上」であることを「同一性」の審査基準としている。

(甲三、五六、七〇)

(3)  甲七二(「医薬品返送(返戻)事例集」平成二年三月。甲五八添付のものと同じ。)に掲載されている事例(特に事例六八六、六八九、六九〇など参照)及び弁論の全趣旨によると、後発医薬品については、先発医薬品との「規格及び試験方法」の同一性調査が薬事行政上極めて重要視され、非常に厳格に実施されていることが窺われる。

(二) 製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」と実際に実施している試験方法との同一性について

(1)  一般に、医薬品の製造業者は、医薬品の製造に当たり、医薬品の製造承認において承認された「規格及び試験方法」を実施することが義務付けられる。しかしながら、当該方法と同等又は同等以上であることが十分に確認される場合には、当該方法と異なる方法を実施することが許される。

(乙一四、弁論の全趣旨)

(2)  さらに、後発医薬品につき製造承認を受けるためには、その製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」が先発医薬品のそれと同一内容のものである必要はなく、先発医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と同等又はそれ以上の精度のものであることが証明できるものであれば(前記二1(一)(2) 、50頁〔同上、一〇八九頁四行目〕)、異なる試験方法を採用しても差し支えない。

そして、後発医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載した確認試験の方法と、現実に業として実施する場合の確認試験の方法とは、必ずしも同じ方法であることを要しない。ただし、この場合であっても、後発医薬品承認の趣旨からして、当然、同等以上の試験方法であることが要求される。(争いがない。)

乙一四(株式会社薬事日報社の発行<昭和六〇年一〇月二八日>に係る厚生省薬務局監視指導課監修「GMP事例集」医薬品の製造管理及び品質管理に開する基準事例集一九八五年版)(医薬品の製造管理及び品質管理規則等の各条文等に関する具体的な運用事例について、問答形式で解説を加えたものである。)のS3-17の問答(四七頁)には、「製造承認書記載の確認試験方法と異なる試験方法を、相関性等を十分に確認した上で原料の確認試験方法として用いてもよいか」との問に対して、「用いてもよい。ただし根拠等を製品標準書等に明記しておくこと。」との答が記載されており、製造承認申請書記載の確認試験方法は異なる試験方法で代用できることが明記されている。

2 被控訴人主張のイ号方法は、薬事法上具備すべき要件を備えているか(被控訴人主張のイ号方法は、「方法A」と同等又はそれ以上のものか。)。

(一) 被控訴人主張のイ号方法が薬事法上具備すべき条件

被控訴人主張のイ号方法は、その構成(別紙目録(四))において、「方法A」(ひいては本件特許方法)と異なるところ、前説示(二1(二)(2) 、52頁〔同上、一〇九〇頁一行目〕)によれば、この場合、被控訴人主張のイ号方法は「方法A」(先発医薬品たる「ノイロトロピン特号3cc」の確認試験の方法)と同等程度以上の測定方法であることが薬事法上要求されることとなる。

(二) 「方法A」と被控訴人主張のイ号方法との対比

「方法A」と被控訴人主張のイ号方法とを対比した内容は別表3記載のとおりであり、これによると、被控訴人主張のイ号方法は次の三点で「方法A」と相違していることが認められる。

・LBTIを使用していない点

・被検物質非添加群を設定していない点

・カリジノゲナーゼ(腺性カリクレイン)の標準吸光度と比較している点

(三) 被控訴人主張のイ号方法は被検物質のカリクレイン生成阻害能を正確に定量することができるか。

控訴人は、右(二)掲記の相違点があることにより、被控訴人主張のイ号方法によってはカリクレイン生成阻害能を正確に定量すること(カリクレイン生成阻害能の有無を検知するだけでなく、どの程度の阻害能があるかを測定すること)ができないとしている。

そこで、控訴人の主張について、以下検討する(言い換えれば、被控訴人主張のイ号方法が、「方法A」と同等程度以上の測定方法であると言えるか否かを検討する。)。

(1)  「LBTIを使用していない」点について

イ 被控訴人は、LBTIを添加しなくてもカリクレイン生成阻害能を測定することができるとしているが、その理由として次の点を挙げている。

a 特異的阻害剤を加えないカリクレイン測定法が広く行われ、定着している(乙二、三、四、六)。

b 一般に行われる「カリクレイン測定法」においても、カリクレインを生成させる条件とカリクレイン量の測定条件等を調整し副反応の発生を最小としている。

そして、実際には、実験目的から無視できるものとなり、場合によっては補正により処理されており、特異的阻害剤を使用することなしに、広くカリクレイン測定は実施されている。

c 特異的阻害剤を用いることなく、カリクレイン生成と反応時間との間に実質的に直線的な関係が成立する時間は測定されている。

d 乙二一(加藤景子ら「カリクレイン様物質産生阻害活性測定法の追試実験報告書」(リマ豆トリプシンインヒビターについての検討))によると、一次反応終了後、時間が経過すると室温放置及び0℃放置の両方法とも、LBTIを用いても被検物質が示すカリクレイン様物質産生阻害率を一定に保持することはできなかった、とある。

e 大阪薬科大学教授玄番宗一(以下「玄番教授」という。)は、LBTI等特異的阻害剤を用いない方法により(コントロール吸光度を測定している。)、「ローズモルゲン注」のカリクレイン様物質産生阻害能の確認ができることを実験により確認した(乙一九)。

f 千熊正彦教授(以下「千熊教授」という。)は、LBTI等の特異的阻害剤を用いる方法でも、これを用いない方法でも、「カリクレイン様物質産生阻害活性」の測定ができることを明らかにしている(乙二〇の一「報告書」)。

g 被控訴人主張のイ号方法では、第一次反応から第二次反応への移行を「直ちに」実施することが基本的な要件であり、LBTIの使用を要件としない。

LBTIを添加しても、第一次反応の後、第二次反応を「直ちに」実施しなければ、第二次反応終了後の吸光度が一定にならないことは乙二九の実験により確認されている。

h 被控訴人主張のイ号方法により、カリクレイン様物質産生阻害活性が確認できることは、乙三八(加藤景子ら「実験報告書(イ号方法」)によっても裏付けられる。

ロ 被控訴人の右各主張についての判断

a 被控訴人の主張aについて

乙二(大出博功らの「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文 臨床化学第一〇巻第二号<昭和五六年六月二五日発行>所載)、三(大出博功らの「カリクレイン活性」と題する論文 臨床科学第一九巻第六号<昭和五八年六月一五日発行>所載)、四(大石幸子<以下「大石教授」という。>らの「蛍光基質を用いたヒト血漿中プレカリクレインの測定法とその応用」と題する論文 「血液と脈管<日本血栓止血学会誌>」第一一巻第二号<昭和五五年六月一日発行>所載)、六(今成登志男「ヒト血漿プレカリクレイン研究の最近の進歩」)には、それぞれ、カリクレインを測定することについての記載はあるが、右いずれの文献の場合も反応系に「被検物質」は添加されていない。したがって、これらの文献は、いずれも、「被検物質」のカリクレイン様物質産生阻害活性を測定する方法を開示したものとはいえない。

b 被控訴人の主張bについて

右主張を認めるに足りる証拠はない。

c 被控訴人の主張cについて

第一次反応で生成された「カリクレイン」の量を測定するには、カリクレインの活性は損なわず、プレカリクレインからカリクレインを生成する作用を有するFXIIaの活性を阻害することが必要である。

特異的阻害剤とは右のような阻害作用を有するものをいうのであり、特異的阻害剤は阻害活性の測定には必要であるといえる。

被控訴人は「特異的阻害剤を用いることなく、カリクレイン生成と反応時間との間に実質的に直線的な関係が成立する時間は測定されている。」とするが、これを裏付けるに足りる証拠はなく(乙二の一四三頁には反応時間とカリクレイン活性との関係を表すグラフ(Fig.1 )が示されているが、このグラフは甲三資料4の四〇一頁の(Fig.2 )と比べると、直線性に劣る。)、採用できない。

なお、甲五三(西川勝巳らの「実験報告書」)はLBTI添加と非添加の場合とを比較したものであるが、これによると、非添加の場合には直線的な比例関係が成立しないことが示されている。

d 被控訴人の主張dについて

乙二一の実験においては第一次反応終了液を室温で放置したとあるが、そのような実験条件を設定すること自体極めて非科学的で(甲三二参照)、同実験結果の信頼性は乏しい。

e 被控訴人の主張eについて

乙一九(玄番教授作成の「実験報告書」)は、(イ)被験薬剤非添加群であるコントロールが設定されている、(ロ)カリジノゲナーゼ標準溶液による基準値が設定されていないという点で、被控訴人主張のイ号方法とは異なり、右イ号方法が「方法A」と同等以上か否かを判断するための資料とはなり得ない。

f 被控訴人の主張fについて

乙二〇の一(千熊教授作成「報告書」)は、カリクレインを測定する方法があれば、阻害活性も測定できるという趣旨の意見を述べているにすぎない。

しかるに、「方法A」(本件特許方法)は、カリクレインを測定する方法が存在するということを前提とした上で、カリクレイン活性を測定するための測定点でLBTIの添加により第一次反応を停止させる点に特徴がある。

乙二〇の一はLBTIの添加については何ら言及していないのである。したがって、乙二〇の一の記載内容をもってLBTIの添加の必要性がないと結論づけることはできない。

g 被控訴人の主張gについて

<1> 被控訴人主張のイ号方法における一次反応から二次反応への移行がいかに速やかに行われたとしても、その後に行われる二次反応の反応時間(二〇分間-乙三五ないし三七参照)中も反応系中の活性型血液凝固第XII 因子の作用によつてプレカリクレインがカリクレインに変化する反応は進行を止めないものと認められる。

そして、この第二次反応過程でのカリクレイン生成を防ぐために添加されるものがLBTIである。

甲五三(西川勝巳らの「実験報告書」)記載の実験IはLBTI非添加の場合には添加の場合に比してカリクレイン生成が増加していることを明らかにしている。

<2> また、被控訴人は「LBTIを添加しても、第一次反応から第二次反応への移行を『直ちに』行わなければ第二次反応の吸光度が一定にならない」旨主張する。

しかし、仮にそのとおりであるとしても、被控訴人主張のイ号方法自体はLBTI非添加であり、第一次反応におけるカリクレイン生成量を正確には測定できないものとせざるを得ないから、被控訴人の右主張するところをもってしても、被控訴人主張のイ号方法が「方法A」と同等以上の方法であることの根拠とすることはできない。

h 被控訴人の主張hについて

「方法A」(ひいては本件特許方法)は、甲三の資料4のFig.2 及び甲五三の図1に見られるように、〇分から二〇分までの間に反応時間と吸光度との間に比例関係が成り立つという前提の上に成り立っている。

しかるに、乙三八(加藤景子ら「実験報告書(イ号方法)」)の図1は、甲五三(西川勝巳らの「実験報告書」)の図1と同様に反応時間と吸光度との関係を表すものであるが、LBTI添加の場合の反応時間曲線が直線関係を示していない。このような結果は、そもそも、乙三八の実験を実施した際の測定操作自体の妥当性を疑わせるものである。また、仮に乙三八の実験の結果被控訴人主張のイ号方法によっても被検物質につき用量依存的に直線が得られることが確認されたとしても、乙三八の図1を参照すると、被控訴人主張のイ号方法とKPI活性測定法とではその測定値に小さからぬ差が出ており(反応時間一〇分の場合で数値上は二〇%の差がある。)、「方法A」を基準の方法とした場合に、被控訴人主張のイ号方法がその定量性において「方法A」と同等程度以上の定量方法であるとは認め難い。

右にいうKPI活性測定法のKはカリクレイン(Kallikrein)、Pはプロダクション(Production)、Iはインヒビション(Inhibition)のそれぞれの頭文字である。

ハ 以上のとおりであるから、LBTIを使用しなくても「方法A」と同等以上の精度でカリクレイン様物質産生阻害活性の定量測定が可能であるとすることはできない。

(2)  「被検物質非添加群を設定していない」点について

イ 被控訴人はこの点について次のような主張をしている。

a 〔当審における新主張〕

被控訴人は、被控訴人主張のイ号方法を実施するに際し、その前提として「被検物質非添加群」の吸光度を必ず測定している。

乙八(加藤景子ら「イ号方法による追試実験報告書」)、同一五(加藤景子ら「イ号方法追試実験報告書〔他社製品での検討〕」)にこのことが記載されている。

b 被控訴人主張のイ号方法では、被検物質非添加の状態で第二次反応後の吸光度が〇・四前後の一定の値になるように、測定ごとに血漿の希釈倍率を決定している。

これはまさしく、「被検物質非添加群」の測定にほかならず、被検物質非添加群の吸光度測定値は約〇・四であることが確認されている。

c 控訴人は「被検物質非添加群」の測定は測定値変動を償却する役割があるとし、これを設定しない被控訴人主張のイ号方法では測定値変動の償却ができないと説明している。しかし、実際には、被控訴人主張のイ号方法でも「被検物質非添加群」の測定がされているのであって、控訴人の右指摘は誤りである。

ロ 被控訴人の右各主張について以下検討する。

a まず、被検物質非添加群の測定値は、酵素反応が阻害されていない状態での測定値、すなわち、被検物質添加群測定値との比較対照となる基準値である。そして、この被検物質非添加群の測定値と被検物質添加群の測定値の「差」がすなわち「阻害能」であるから、そもそも被検物質非添加群の測定値がなければ、被検物質の阻害能は算定できない(そして、この被検物質非添加群の測定と被検物質添加群の測定は、一回の測定毎に、同時に並行して実施する必要がある。何故ならば、酵素反応を用いる実験では、実験ごとに測定値が変動することが避けられないからである。被検物質非添加群と被検物質添加群の測定値の変動を最少化し、両群の測定値を正確に比較するためには、両群の実験条件を均一としなければならない。そして、両群の実験条件を均一とするためには、一回の実験ごとに、同時に並行して両群の測定を実施する必要がある。このように同時に並行して実施された被検物質非添加群の測定値は、両群の酵素反応が適正に進行しているかどうかの指標ともなるので、反応自体の信頼性を保証する上でも重要である。)。したがって、カリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定のためには「被検物質非添加群」の測定が不可欠である(甲六三〔大学教授岡本博の意見書〕はこれを「実験常識」であるとしている。)と解されるところ、当審における被控訴人の新たな主張aは、一般論として「被検物質非添加群」の測定なくしては阻害活性の定量が不可能であることを被控訴人としても認める趣旨のものと解するのが相当である。

そこで、この点に関連して、被控訴人が引用する乙八、一五の各記載を検討しつつ、被控訴人主張のイ号方法が「被検物質非添加群」を「コントロール群」として実際に使用していると言えるのか否かについて次項以下において考えてみることとする。

b 被控訴人は、被控訴人主張のイ号方法が「被検物質非添加群」を「コントロール群」として実際に使用していることの根拠として、乙八及び同一五のうちの次の記載部分を引用している。

乙八(加藤景子ら「イ号方法による追試実験報告書」)

「ヒト正常血漿溶液

試料溶液のかわりに〇・二五M塩化ナトリウム溶液を用いて、下記の測定方法と同様に操作した場合の吸光度測定値が約〇・四を示し、且つ、試料溶液のかわりに〇・二五M塩化ナトリウム溶液を、カオリン懸濁液のかわりに〇・〇五Mトリス塩酸緩衝液(pH八・〇)を用いて下記の測定法と同様に操作した場合の吸光度測定値が〇・〇四以下を示すように、生理食塩水でヒト正常血漿を希釈し、ヒト正常血漿溶液とした。」

乙一五(加藤景子ら「イ号方法追試実験報告書〔他社製品での検討〕」)

「ヒト正常血漿溶液

ヒト凍結乾燥血漿一バイアルに精製水一mlを加えて溶かし、これを、次に示す4.測定方法におけるコントロールの吸光度測定値が約〇・四を示し、かつ、ブランクの吸光度測定値が〇・〇四以下を示すように、生理食塩水で希釈し、ヒト正常血漿溶液とした。」

乙八、一五の右各記載はヒト血漿の希釈倍率を決定するための実験を示すものと考えられるが、これをもって被控訴人は「被検物質非添加群」の測定であるとしているものと解される。

c ところで、乙八、一五については、これらを批判するものとして、次の証拠がある。

〔甲六三(神戸学院大教授岡本博作成「意見書」)〕

・ 乙八の実験報告書に従えば、同実験の担当者はまずバイアル瓶に入った Ci-Trolを蒸留水で溶かした後生理食塩液を加えて希釈し、「測定方法」に記載された操作を行って、その吸光度を測定し、どれだけの量の生理食塩水で希釈すれば吸光度が「約〇・四」になるか、すなわち吸光度に対する希釈倍率の決定を行っているに過ぎない。この希釈倍率決定のための操作を、比較対照基準としての被検物質非添加群の測定であるというのは、全く非科学的である。

・ 乙八においては、被検物質添加群の測定結果(AT―ATB)は、カリジノゲナーゼ群の測定結果(AS―ASB)と比較されているのみで、被検物質非添加群とは比較されていない。

・ 乙一五に記載されている実験方法は被控訴人主張のイ号方法を実施したものではない。

・ ローズモルゲン注を検体としてイ号方法による測定を実施したと報告されている乙三四の一ないし四及び同三五ないし三八を精読しても、被検物質非添加群の測定は実施されていない。

〔甲六四(大阪大学蛋白研究所教授永井克也作成「回答書」)〕

・ 血漿希釈率の決定のための実験は、被検物質の測定を行うに先立って行われるので、被検物質の測定と同時に行わなければならない対照群の測定とはなり得ない。

・ 乙八にはその測定の実施を指示する記載は見当たらないし、それを実施した測定結果が示されていない。したがって、対照群の測定が行われているとは思われない。

・ 乙一五の実験ではカリジノゲナーゼの測定が行われておらず、これと被検物質添加群の測定値との比較が行われていないので、被控訴人主張のイ号方法ではない。

・ 乙三四の一ないし四及び同三五ないし三八のいずれの実験方法の欄にも対照群の測定の実施を示す記載は認められず、いずれの実験結果にもそれを実施した測定結果が示されていない。したがって、イ号方法において対照群の測定が行われているとは思われない。

〔甲六五の一(大阪市立大学助教授田中俊雄作成「意見書」)〕

・ 「被検物質非添加群」とは、特にある反応に対する被検物質の阻害活性を測定する試験系の場合には必ず実施しなければならないものであり、被検物質の添加群と同じ実験において同時に併せて行われなければならない。

・ 乙八には、ヒト血漿の希釈倍率を決定するための操作は記載されているが、これは測定試験を行う前の単なる試薬類の調製操作としか認められない。

乙八の「4.測定方法」には被検物質を添加しない対照群の測定は全く記載されておらず、被控訴人主張のイ号方法においては「被検物質非添加群」は実施されていないと判断する。

・ 乙八の「試験結果」「判定」の項においても、カリジノゲナーゼによる測定結果と比較して判定しているのみで、被検物質非添加群との比較結果が示されていない。

・ 乙一五の実験では被控訴人主張のイ号方法の必須要件であるカリジノゲナーゼによる吸光度測定が行われていないため、方法自体が被控訴人主張のイ号方法と異なる。

・ 被控訴人主張のイ号方法による被検物質測定の実測値(乙三四の一ないし四)及び被控訴人主張のイ号方法実施に関する報告書(乙三五ないし三七)の記載内容をみても、被検物質非添加群を実施した旨の記載はない。

d 判断

右甲号各証に記載されている内容はいずれも妥当なものであると考えられる。すなわち、

<1> 乙八、一五の「ヒト正常血漿溶液」の項の記載は、測定試験を行う前の試薬類の調製操作として記載されているとするのが相当である(但し、乙一五の方法は被控訴人主張のイ号方法ではない。)。

<2> 「方法A」においては、「被検物質非添加群」の吸光度から「被検物質添加群」の吸光度を差し引いた吸光度が「阻害活性」に対応する数値となる。

<3> 乙八の「測定方法」の項には、「被検物質非添加群」についての測定を行ったことは示されておらず、その測定数値を「試験結果」の項において阻害活性算出のために使用したことも示されていない。

<4> 被控訴人は乙一五を被控訴人主張のイ号方法による測定結果としているが、これはコントロール(被検物質非添加群)を使用し、その数値処理においてコントロール吸光度(AC)から試料溶液(被検物質添加群)の吸光度(AT)の差をとっているものであるから、これはそもそも被控訴人主張のイ号方法を実施したものではない。

<5> 被控訴人がイ号方法を実施している事実に関する証拠であるとして提出している乙三四(カリクレイン様物質産生阻害活性に関する試験データ)、同三五ないし三七(被控訴人主張のイ号方法実施の現場を見聞したとする「報告書」)のいずれを参照しても、被検物質添加群の測定結果はカリジノゲナーゼ標準溶液を用いた測定結果と比較されているのみであって、被検物質非添加群を用いた場合のカリクレイン生成量の測定結果については記載も比較もされていない。

ハ したがって、被控訴人主張のイ号方法においても「被検物質非添加群」の測定を実際に行っている旨の、被控訴人の主張は採用できない。

(3)  「カリジノゲナーゼ(カリクレイン)の標準吸光度と比較している」とする点について

イ 被控訴人は、この点について、次のとおり主張している。

a 被控訴人主張のイ号方法において、カリジノゲナーゼ標準溶液を比較対照とするのは、安定的かつ正確に、カリクレイン様物質産生阻害能を確認するためである。

b 被控訴人主張のイ号方法においてカリジノゲナーゼを用いる目的は次のとおりである。

<1> 「誤差の吸収・償却」のために用いるのではない。

被控訴人主張のイ号方法においては、「被検物質非添加群」の吸光度は測定されているので、控訴人のいう「誤差の吸収・償却」がこれにより確保されている。

<2> カリクレイン様物質産生阻害能を算出する際の吸光度の「保証基準(判定基準)」として用いられるものであり、KPI活性測定法で用いられているp―ニトロアニリンに対応するものである(乙三九〔桂田正徳らの「報告書」〕の三頁の図参照)。

「被検物質非添加群」の吸光度は約〇・四と測定されている。したがって、理論的には、被検物質添加試料の吸光度がこれより小さければ、被検物質にはカリクレイン様物質産生阻害能があることになる。

しかし、実際には複雑な要因の関係する反応であり、正確性を確保するため、被控訴人主張のイ号方法においては、ブランクの吸光度を測定しその差を見ることとし、かつ、保証基準(判定基準)としては、安定的なカリジノゲナーゼ標準溶液を使用している。

<3> カリジノゲナーゼ(腺性カリクレイン)は、活性量の明らかな国家標準品(国立衛生試験所標準品)として安定した品質のものの入荷が可能である。

<4> これを用いた値をカリクレイン様物質産生阻害能の判定基準とし、被検物質の値がこの値より低い時にカリクレイン産生阻害能が「有る」と判定される。

<5> 被検物質非添加群の吸光度は〇・四前後であり、カリジノゲナーゼ標準液の値(〇・三前後)との差が保証基準となる。

これにより、阻害能が一定値以上存在することが確認できる。

<6> また、カリジノゲナーゼ(腺性カリクレイン)の使用により、発色性合成基質(S-2302)の品質及び第二次反応の異常を毎回確認できる。

ロ 控訴人は、被控訴人の右主張に対し、次のとおり反論し、甲三五(西川勝巳作成「陳述書」)を提出している。

a 主張

カリジノゲナーゼにより触媒される酵素反応は、血漿カリクレイン・キニン系の活性化反応とは全く異質の反応である。したがって、被検物質非添加群に代えてカリジノゲナーゼ標準液を用いて被検物質のカリクレイン生成阻害活性を測定することは理論的に誤っている。

b 甲三五

・ 被控訴人はコントロールに代え、固定的な「カリジノゲナーゼ標準溶液」の吸光度を用いて、それを「理論上の基準値より約〇・一厳しく設定している」旨主張している。

この主張は「被検物質非添加群」の吸光度目安値をA′、そのブランクの吸光度目安値をAb′とし、「カリジノゲナーゼ標準溶液」の吸光度をAS、そのブランクの吸光度測定値をASBとすると、次式のように表される。

(A′-Ab′) - (AS  - ASB)= 約0.1

理論上の基準値            (式3)

・ さらに、被控訴人は被控訴人主張のイ号方法では被検物質添加群の吸光度測定値をAT、そのブランクの吸光度測定値ATBとした場合、次式に示すような関係が成立すれば規格適合であるとしている。

(AS  - ASB) > (AT  - ATB)

(式4)

・ しかし、コントロールを設定せず、これに代えて用いる当該活性化反応(一次反応)とは全く関係のない前記「理論上の基準値」(A′-Ab′)及び「カリジノゲナーゼ標準溶液」の吸光度(AS)は、被検物質添加群(AT)の変動に連動しないので(このことは甲九の六頁表2の「Δ吸光度」の表でも明らかである。)実験ごとに(式3)の示す吸光度差〇・一を保証することにはならない。

・ したがって、被検物質添加群の吸光度測定値(AT)と対比すべき、この「カリジノゲナーゼ標準溶液」による基準値自体が比較対照となり得ないことから、(式3)及びそれを前提とした(式4)は成立せず、被検物質添加群の吸光度が規格適合とすべき吸光度差〇・一を確保したことにはなり得ない。

・ 被控訴人は、また、被検物質を添加しない場合の吸光度(A′)が約〇・四となるよう血漿の希釈度を決定している旨主張している。

しかし、これは、毎回実験に用いるヒト正常血漿を希釈するための単なる目安となる数値に過ぎず、実験ごとの「被検物質非添加群」の吸光度の数値が〇・四であることを意味するものではない(規定あるいは確認したものではない。)。

・ このような「一応の目安」による測定では、統計学上、「被検物質非添加群」の吸光度は設定値「〇・四」をはさんで上下(左右)対称に正規分布することから、行った実験の約半数が吸光度差〇・一以下となるばかりか、被控訴人主張のイ号方法ではコントロールを設定していないので(A′-Ab′)を測定することができず、どの実験が吸光度差〇・一を確保できているのか、いないのかすらわからない。

ハ 判断

a 被控訴人は、被控訴人主張のイ号方法においては、「被検物質非添加群」の吸光度は測定されているので、控訴人のいう「誤差の吸収・償却」がこれにより確保されていると主張するが、被控訴人主張のイ号方法においては、被検物質非添加群の吸光度が測定されているとは認められないことについては、前記二2(三)(2) ハ(81頁〔同上、一一〇二頁一七行目〕)において説示したとおりである。

b 被控訴人は、理論的には被検物質を加えない場合の吸光度よりも、被検物質を加えた場合の吸光度が小さければ「カリクレイン様物質産生阻害能」があるとし、実際には複雑な要因が関係する反応であり、正確性を確保するために、被控訴人主張のイ号方法においては、ブランクの吸光度を測定してその差を見ることとし、かつ保証基準(判定基準)としては安定的なカリジノゲナーゼ標準液を使用していること及び被検物質非添加群の吸光度は約〇・四前後であり、これより約〇・一小さいカリジノゲナーゼ標準液の吸光度(〇・三前後)との差が保証基準となり、これにより阻害能が一定値以上存在することが確認できると主張している(乙三九資料F-18参照)。

これは、すなわち、基本的には次の関係があるときに「カリクレイン様物質産生阻害能」があるということになる。

理論上の基準値(約〇・四)-被検物質添加群>〇

そして、正確性を確保するために次の場合を合格とすることになる。

理論上の基準値(約〇・四)-被検物質添加群>約〇・一

ただ、被控訴人主張のイ号方法では、上記のような「理論上の基準値」を測定しているのではなく、実際上は被検物質添加群についての測定値とカリジノゲナーゼ標準液についての測定値とを比較することによって合否判定をしているのであり、それは次のようになる。

カリジノゲナーゼ標準液吸光度(約〇・三) > 被検物質添加群吸光度

(AS―ASB)         (AT―ATB)

しかしながら、カリジノゲナーゼ(カリクレインは血漿中に存在するのに対して、カリジノゲナーゼは組織〔臓器及び分泌腺〕に存在する。カリジノゲナーゼは血漿カリクレインとは異質の酵素であり、血漿カリクレインによって生成されるブラジキニン(H-Arg-Pro-Pro-Gly-Phe-Ser-Pro-Phe-Arg-OH)とはアミノ酸組成を異にするペプチドであるカリジン(H-Lys-Arg-Pro-Pro-Gly-Phe-Ser-Pro-Phe-Arg-OH)を産生させる酵素である。)による反応は、生化学的にみて、ヒト血漿カリクレイン・キニン系の酵素反応とは全く無関係の反応であると認められるので、そのカリジノゲナーゼによる反応から得られた吸光度測定値の試験ごとの変動は、被検物質を添加した場合の測定値の変動と連動するとは考えられず、したがって、この被検物質を添加した場合の測定値の変動を償却することができるとは考えられない(なお、被控訴人は、被控訴人主張のイ号方法においては「被検物質非添加群」の吸光度が測定されているので、「誤差の吸収・償却」はこれにより確保されている旨主張するが、この主張が採用できないことについては前記二2(三)(2) ハ(81頁〔同上、一一〇二頁一七行目〕)で既に述べた。)。

すなわち、被控訴人主張のイ号方法では、血漿からのカリクレイン生成反応という、測定ごとの変動が避けられない測定系を用いながら、その比較対照基準として、血漿を用いないカリジノゲナーゼ標準液を使用しているため、血漿を用いた時のカリクレイン生成反応における試験ごとの測定値の変動を償却できず、したがって、カリジノゲナーゼ標準溶液は「阻害能」を測定する際の基準とはなり得ないものと認められる。

そして、「被検物質添加群」の吸光度についての測定値が誤差変動を含んだものであり、かつ、その誤差変動を償却することができない以上は、この数値と「カリジノゲナーゼ標準液吸光度」の測定値とを比較して、右の関係式を満足するか否かを確認してみてもそれは定量性の点から見て技術的には意味のないものであるといわざるを得ず、したがって、右の関係式を満足するか否かで合否を判定することは、技術的観点から見て、医薬品の検定方法としては妥当なものとすることができない。

c 一方、「方法A」は、「被検物質非添加群」の吸光度と「被検物質添加群」の吸光度とを測定して、その吸光度差がp―ニトロアニリン標準液の示す吸光度(〇・一〇-甲一五参照)よりも大きいことをもって合格とするものである。

そして、「方法A」は「被検物質非添加群」の吸光度と「被検物質添加群」の吸光度とを測定して、その吸光度差を阻害能に対応する測定値として得ているため、測定値の変動が償却された正確な阻害能を得ることができるものと認められる。

d 以上のとおりであるから、「カリジノゲナーゼの標準吸光度と比較している」点において、被控訴人主張のイ号方法は「方法A」と同等程度以上の精度でカリクレイン産生阻害活性の定量測定が可能であるとすることはできない。

3 小括

(一) 被控訴人は、「被控訴人が本訴で開示した被控訴人主張のイ号方法は、被控訴人医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄の「確認試験」の項に記載されているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験に係る記載内容については何ら言及したものではなく、被控訴人は被控訴人主張のイ号方法と右申請書の記載内容とが実質的に同一であると主張するものではない。なお、被控訴人主張のイ号方法の内容も、本訴の判断に必要かつ十分な限度でこれを開示したものにすぎず、現実にこれを業として実施する際には更に詳細な条件設定が必要であることはいうまでもない。」旨の主張をしている。

(二) しかるに、被控訴人主張のイ号方法は、その開示されたところによって具体的に検討してみても、前記二2(三)(55頁から96頁〔同上、一〇九一頁一〇行目から一一〇九頁六行目まで〕)でみたとおり、薬事法上遵守されるべき「方法A」と同等程度又はそれ以上の確認試験の方法であることという要件が満たされているとは認め難いと言わざるを得ない。

なお、被控訴人医薬品の製造承認申請書のうち「規格及び試験方法」の欄の「確認試験」の項に記載されているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験に係る記載内容は、本件全証拠をもってしても、明らかではない。

また、乙五二(財団法人日本公定書協会編「医薬品製造指針(一九九五年版)」一二三頁)には「規格及び試験方法は、当該医薬品の品質を、規格全体から総合的に保証するように設定する。例えば、医薬品の確認は確認試験の項の試験結果のみによるとは限らず、規格及び試験方法全体の試験結果から医薬品が確認されればよい。」との記載があるが、本件のように、生体の皮膚組織から抽出された抽出液の場合には、医薬品の品質を定める「規格」に適合するか否かを測定する確認試験の方法がとりわけ重要であると考えられるし、被控訴人医薬品の製造承認申請書に記載された「規格及び試験方法」が全体的・総合的判断において「方法A」と同等程度又はそれ以上の確認試験の方法であると評価されたものであるということを認めるに足りる証拠もない。

(三) 製造承認事項と医薬品の製造管理及び品質管理規則による製造と出荷・販売

(1)  薬事法に基づく「医薬品の製造管理及び品質管理規則」(平成六年一月二七目厚生省令第三号)は、次のとおり定めている(甲五九)。

(製品標準書)

第四条 製造業者は、医薬品の品目ごとに、製造承認事項、製造手順その他必要な事項について記載した製品標準書を当該医薬品の製造に係る製造所ごとに作成しなければならない。

(製造管理責任者の業務)

第六条 製造業者は、製造管理責任者に、製品標準書、製造管理基準書又は製造衛生管理基準書に基づき、次の各号に掲げる医薬品の製造管理に係る業務を適切に行わせなければならない。

(中略)

二  次に掲げる業務を自ら行い、又は業務の内容に応じてあらかじめ指定した者に行わせること。

イ 製造指図書に基づき医薬品を製造すること

(中略)

(品質管理基準書)

第七条 製造業者は、製造所ごとに、検体の採取方法、試験検査結果の判定方法その他必要な事項を記載した品質管理基準書を作成しなければならない。

(品質管理責任者の業務)

第八条 製造業者は、品質管理責任者に、製品標準書又は品質管理基準書に基づき、次の各号に掲げる医薬品の品質管理に係る業務を計画的かつ適切に行わせなければならない。

一  次に掲げる業務を自ら行い、又は業務の内容に応じてあらかじめ指定した者に行わせること。

イ 原料及び製品についてはロットごとに、資材については管理単位ごとに試験検査を行うのに必要な検体を採取し、その記録を作成すること。

ロ 採取した検体について、ロットごと又は管理単位ごとに試験検査を行い、その記録を作成すること。

(後略)

そして、昭和五五年厚生省令第三一号による「医薬品の製造管理及び品質管理規則」にも右と同旨の規定(三条、六、七条)が置かれていた(甲三添付資料6参照)。

(2)  右にみたとおり、製造承認・許可を受けた医薬品を製造販売するには、薬事法の規定に基づいて定められた基準・規則に則り、承認事項の製造方法に従って原料及び製品を製造し、すべての製造ロットごとに試験検査し、承認事項の「規格及び試験方法」(但し、前説示〔二1(二)(1) 、52頁〔同上、一〇八九頁一五行目〕〕のとおり、右「規格及び試験方法」と同等又は同等以上であることが十分に確認される場合には、右方法と異なる方法でもよい。)に適合したもののみが出荷・販売されることになる(甲三)。

(3)  したがって、品質・規格(規格及び試験方法)等が先発医薬品と同等であると評価・承認された後発医薬品の「ローズモルゲン注」を実際に製造するには、被控訴人は「ローズモルゲン注」の原料である「FN原液『フジモト』」並びにこれを含有する製剤「ローズモルゲン注」につき、各々の製造段階で製造ロットごとに承認事項の「規格及び試験方法」に従って、各々試験検査して合否を判定し、その結果を記録・保存しなければならない。

(四) ところで、乙三五(滋賀県立大学看護短期大学部教授川村正純作成「報告書」)、同三六(大阪薬科大学助教授森本一洋作成「報告書」)、同三七(大阪市立大学工学部助教授山内清作成「報告書」)によると、いずれも、被控訴人の彦根工場において、<1>試験対象たる「ローズモルゲン注」はカリクレイン様物質産生阻害活性を有すること、<2>「被控訴人の本測定方法」の分析手順書においてはLBTIは使用されていないこと、<3>標準品としてカリクレイン(カリジノゲナーゼ)が使用されており、p―ニトロアニリンは使用されていないことをそれぞれ確認したとある(但し、被控訴人が被検物質非添加群の測定に相当すると主張するところのヒト血漿の希釈倍率を決定するための測定が実施されている旨の記載はない。)。

しかしながら、右各報告書にいう「分析手順書」なるものの内容及びそれが被控訴人の彦根工場における医薬品の製造工程に関連していかなる位置づけを有するものであるのかが明らかでないし、そもそも、右各報告者に提示された「分析手順書」なるものが被控訴人の工場における実際の製造工程において被控訴人の医薬品の検定のために採用されているものであるということを認めさせるに足りる裏付け資料はない。してみると、乙三五ないし三七をもってしても、いまだ、被控訴人主張のイ号方法が、被控訴人の工場における実際の製造工程において、被控訴人医薬品の確認試験の方法として実施されているということを認めさせるに足りないというべきである。

(五) 以上述べたところを総合して合理的に解するならば、自ら医薬品等の製造、販売を業とし、その製造、販売する医薬品については品質、有効性及び安全性を確保すべき義務を負っている製薬企業としての被控訴人が、薬事取締法規上具備すべきこととされている要件を充足しているとは評価し難い被控訴人主張のイ号方法をあえて採用し、しかも実際にこれを用いて被控訴人医薬品を製造、販売しているというような異例の事態が生じているとは容易に認め難いと言わなければならない。

三  被控訴人医薬品における本件特許方法の実施の有無

1 本件特許方法について

(一) 本件特許方法は次の構成を有する(前記第二の一1(三) 13頁〔同上、一〇七二頁一一行目〕)。

「動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質から成る溶液を混合反応させ、次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、生成したカリクレインを定量する。」

(二) 本件特許方法は、次の理由により、被検物質のカリクレイン生成阻害能を定量することができるものと認められる。

(1)  酵素活性は、酵素の反応速度、すなわち酵素が基質に作用する際の単位時間当たりの反応生成物の産生量で示される。したがって、酵素の活性を正確に求めるためには、測定反応時間内においては酵素の反応速度が一定(反応生成物量の増加率が一定)であるという条件、すなわち、反応時間の経過に伴って反応生成物の量が直線的に増加する条件の下で測定を行うことが必須要件となる。

(2)  本件について言えば、「動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質からなる溶液を混合反応させ」た場合、加えられる「血液凝固第XII 因子活性化剤」、血漿中の「血液凝固第XII 因子」、「プレカリクレイン」の量は共に一定であるから、「カリクレイン」の生成量は、反応の初期においては一定の反応速度で直線的に上昇(増加)する。

しかし、反応の進行に伴い、系中の変化を受けるべき物質(プレカリクレイン)の量が消費されて減少してくると、反応は次第に頭打ちになって生成量は曲線を描くことになり、この曲線部分は、この系における「カリクレイン」の反応時間に応じて正比例した生成量を正しく示すことにはならない。

(3)  反応時間と生成量との正比例的相関関係を正しく示しているのは反応時間と生成量との間に直線関係が成立している部分であって、この部分のカリクレイン生成量を対照基準(被検物質を加えない基準値)とし、被検物質がこの生成をいかほど抑制するかを測定することによって「被検物質のカリクレイン生成阻害能」が定量的に測定できる。

(4)  そして、この測定点におけるカリクレインの生成量を正確に特定(固定)するためには、測定点における生成済みカリクレインの量及びその活性には影響を与えることなく、カリクレインの生成反応をそれ以後確実に停止しなければならない。

(5)  この目的のためには、プレカリクレインに作用してカリクレインを産生させる活性化された血液凝固第XII 因子の効力を特異的に阻害するが、生成されたカリクレインの量(活性)には影響を与えないLBTIのような特異的阻害剤を測定点において反応系に添加しなければならない。

(6)  このような阻害剤を用いなければ、測定時点においても、カリクレイン生成反応は停止せず、カリクレイン生成反応が連続して進行することとなり、測定時点におけるカリクレインの生成量は特定することができなくなる。

ましてや、定量的測定法に必須の前提条件たる「カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間」が何時から何時までかということを確認することはできない。

(7)  しかるところ、本件特許方法は、「カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内」に「特異的阻害剤」を添加するという構成を有しているので、右に述べたような定量的測定を行うための要件を備えているということができる。

2 本件特許方法によらなくとも、カリクレイン様物質産生阻害活性を定量的に測定することは可能か。

(一) 本件特許方法以外の公知のカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測量方法は存在するか。

被控訴人は、本件特許方法以外にもカリクレイン様物質産生阻害活性を定量的に測定する方法は存在する旨主張する。そこで、以下、被控訴人が指摘するところの公知の方法が本件特許方法と同様のカリクレイン様物質産生阻害活性の定量法であるといえるか否かについて検討する。

(1)  乙二(大出博功らの「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文 臨床化学第一〇巻第二号<昭和五六年六月二五日発行>所載)について

イ そこに記載されている実験内容は、次のとおりである。

a カオリン懸濁液(血液凝固第XII 因子活性化剤)に血漿を加えてなるプレカリクレイン活性化反応液を所定時間反応させ、これにZ-phe-arg-MCA(MCA基質)を加えて反応させたのち蛍光強度を測定して、カリクレイン活性を測定する。

b プレカリクレイン活性化反応液にSBTI、EWTI、t-AMCHA又はアプロチニンを添加し、活性の阻害率を求める。

ロ 右のとおり、乙二にはカリクレイン活性を測定したこと及びその反応系にSBTIのような阻害剤を添加したものについてもカリクレイン活性を測定したことが記載されている。

しかし、乙二の反応系には本件特許方法におけるような「被検物質」は添加されておらず、乙二に示されている試験は被検物質の阻害活性能を測定することを目的としたものではない。

ハ すなわち、乙二に記載されている前記イaの試験は血中カリクレイン活性測定のための適当な試験条件を確立することを目的としたものであって、このため、種々の条件下でカオリン懸濁液によって血漿中のプレカリクレインを活性化して得られるカリクレインの活性を測定しているものであるが、そもそも反応系には「被検物質」を添加しておらず、したがって、イの試験は、被検物質の阻害活性能を測定するものではない。

また、乙二に記載されている前記イbの試験は、反応液中にSBTI、EWTI、t-AMCHA又はアプロチニンを添加した場合に、カリクレイン活性がどの程度活性が阻害されるかを測定しているが、これはSBTI、EWTI、t-AMCHA又はアプロチニンそのものの活性阻害率を求めたものであり、これを添加することによって、それ以後のカリクレイン生成を停止させて、その測定点でのカリクレイン生成量を固定し、もってその測定点での被検物質による阻害活性の測定を可能にするというものではない。

ニa なお、乙九(玄番教授作成「実験報告書」)は「甲第一号証である阻害剤(活性型血液凝固第XII 因子に対する阻害剤)を用いた特公平四-一四〇〇〇号特許公報記載の測定法(本件特許方法)と、乙第二号証である昭和五六年六月発行の臨床化学第一〇巻第二号第一四〇-一四八頁記載の、阻害剤を用いずに第一次反応後直ちに第二次反応を行う測定法とを比較検討」したものであり、検討の結果として、乙二の測定法によっても、被検薬のカリクレイン生成阻害能を確認することができると結論づけている。

b しかしながら、乙二自体は血中カリクレイン活性の測定法についての文献であり、被検物質の阻害活性を測定することを目的としたものではないこと、したがって、乙二によって被検物質のカリクレイン生成阻害能を確認するための方法が本件特許方法以外にも知られていたとすることはできないことは既述したとおりである。

c 乙九は、乙二の方法をそのまま被検物質のカリクレイン生成阻害能に応用しても本件特許方法と同程度の精度で阻害能の確認ができるとするものであるが、その阻害率についての測定データ(六頁表1)を参照すると、測定値に著しい変動が見られ、測定値の信頼性に問題があると考えられるので、このような測定値を前提とした乙九の結論は採用することができない。

(2)  乙四(大石幸子<以下「大石教授」という。>らの「蛍光基質を用いたヒト血漿中プレカリクレインの測定法とその応用」と題する論文「血液と脈管<日本血栓止血学会誌>」第一一巻第二号<昭和五五年六月一日発行>所載)について

大豆トリプシンインヒビターとLBTIとを併用し、生成カリクレインを含む第二次反応液に大豆トリプシンインヒビターを存在させてカリクレイン活性を消失させたものと、同じくLBTIを存在せしめてカリクレイン活性を保存させたものとの測定値の差を取ることによってカリクレイン活性を抽出するものであって、反応系に存在する被検物質の阻害活性能の測定のために、試料溶液の第一次反応における測定(時)点以後のカリクレイン生成を停止させる目的でLBTIが用いられるものではない。すなわち、右報告にある測定法は被検物質のカリクレイン生成阻害能を測定するというものではなく、本件特許方法と目的、構成、効果を異にするものである。

(3)  乙七(日本生化学会編「生化学実験講座5酵素研究法(上)」(昭和五〇年八月二〇日発行)の「プレカリクレイン活性化酵素(ハーゲマン因子)の測定法」の項)について

イ 乙七には次の事項が記載されている。

a プレカリクレインとプレカリクレイン活性化酵素(ハーゲムマン因子)とを反応させ、37℃で放置後LBTIを加えて、活性化酵素を失活させたのち、活性化されたカリクレインの活性をヒドロキシルアミン法で測定することにより、プレカリクレイン活性化酵素活性を測定する。

b 精製した、あるいは部分精製したプレカリクレイン活性化酵素を用いて同様の方法によってプレカリクレインを定量する。

ロ しかしながら、乙七記載の方法はLBTIを添加してカリクレイン生成反応を終了させている点では本件特許方法と同じであるが、その測定の目的は、プレカリクレイン活性化酵素の活性の測定又はプレカリクレインの定量であって、その反応系には「被検物質」は用いられていない。

したがって、乙七の試験方法は、反応系に「被検物質」が存在しないことから、「被検物質」のカリクレイン生成阻害能を測定するものではあり得ず、本件特許方法とは目的も構成も異にするものである。

(4)  以上によると、被控訴人が指摘するところの公知の方法は、いずれも、本件特許方法と同様のカリクレイン様物質産生阻害活性の定量法であるとはいうことができないものであって、ほかに、本件証拠上、本件特許方法以外に公知のカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法が存在することを認めるに足りる証拠はない。

(二) 本件特許方法の構成(前記三1(一) 105頁〔同上、一一一三頁一三行目〕)を備えなくとも、カリクレイン様物質産生阻害活性の定量は可能か。

(1) イ 被控訴人は、この点に関して、乙四四(国立循環器病センター研究所理学博士加藤久雄<以下「加藤」という。>作成「意見書」)を提出している。右乙四四は、LBTIを用いなくても、被検物質のカリクレイン生成阻害能を測定することは可能である旨の意見を述べ、次の事項を指摘している。

a 第一次反応においても活性型血液凝固第XII 因子を阻害せず、第二次反応中で活性型血液凝固第XII 因子が吸光度に影響を与えたとしても、同一条件でコントロールや各種の測定値と比較することにより、XII a因子を阻害した場合と同等程度の阻害能(%)を求めることができる。

b 反応時間などの各種の測定条件を適切に設定すれば、第二次反応系でのXII a因子の影響を最小限に押さえ、XII a因子阻害剤を用いた場合と実質的に同等の測定値(吸光度)を得ることも可能である。

c カオリンを用いたXII 因子の活性化能の測定につき、第一次反応及び第二次反応の全過程において、XII a因子の阻害剤を使用しない測定系を用いて、カリクレインを測定したことがある(昭和五七年六月三〇日発行の「臨床病理臨時増刊、特集 第五〇号第一〇二~一一三頁」)。

ロ これに対して、カプラン教授は次の意見を述べている(甲六八)。

a 加藤らの測定法では、ヒト由来の蛋白質ではなく、ウシ由来の精製された蛋白質が用いられているが、これは重大な欠点である。

b 本件特許方法は、プレカリクレインからカリクレインへの変換に至るヒトのカスケード反応に対する薬物の阻害作用を測定することを目的としている。

c ヒトの精製FXIIは一旦精製されると、冷凍された状態でさえ不安定である。異なるヒトFXII精製品は常にわずかの割合の活性化されたFXIIを含んでおり、この割合は標品ごとに異なっているのでコントロールすることができない。時間とともにその割合はどの標品においても上昇する。

d ウシのFXIIは自己活性化せず、したがってヒトの場合と異なる。

e ヒトの血漿系を用いた場合、検出可能な量の活性型FXIIを含まないFXIIが得られ、ヒト精製蛋白質を用いる方法に比べれば再現性が高い。

f 加藤らの測定法を用いた場合の結果は、「方法A」によって得られる結果と同じではあり得ない。

g 加藤らの測定法ではLBTIが使用されていないので、カリクレインの生成が継続される。

h 反応段階でポリブレンを用いているが、この物質は、FXIIaに対する阻害作用がほとんどなく活性化表面の電荷を中和して表面介在性のFXIIの活性化反応を阻害するものである。

i したがって、ポリブレンを使用してもFXIIaによるカリクレインの更なる生成は停止されない。

加えて、FXIIaによる合成基質の分解が寄与して、最終段階におけるカリクレインのみの定量を不可能とするおそれが常にある。

j したがって、LBTIを添加することは血漿カリクレインの精製に対する被検物質の阻害作用を定量的に測定する上で不可欠であり、加藤らの方法はこれと代替し得るものではない。

ハ 判断

カプラン教授の指摘にあるように、加藤らが行った実験はウシ血漿由来の蛋白質(第XII 因子、高分子キニノゲン、XII a因子)についての試験であり、この試験とヒト血漿由来の蛋白質を用いる試験との間に同等性があることを認めるに足りる合理的な根拠はない。

加藤らの測定法は第一次反応後にポリブレンを添加する操作があるが、このポリブレンは甲六八によるとFXIIaの阻害剤ではない。

(2)  被控訴人提出の乙四六(北里大学薬学部教授大石幸子<以下「大石教授」という。>作成の平成六年七月一九日付意見書)は、種々の文献をあげて、本件特許方法以外にも、血漿カリクレインの活性化阻害能につき複数の方法が考えられるとしている。

イ まず、乙四六では、活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)を基質である精製したプレカリクレインに加え、カリクレインを3H-TAMEやMCA基質の分解によって測定する方法を引用している。

しかしながら、これについては、カプラン教授が次のような意見を述べている。

この方法では、FXIIは既に活性化されており、また反応型に「方法A」で用いられているカオリンのような活性化表面が用いられていない。このため、この測定方法では、単にFXIIaに対する阻害作用を検出するためにしか用いることができず、カリクレイン精製に必要な反応段階のすべてに対する阻害効果を評価することができない。接触系の活性化反応、すなわち、活性化表面存在下での血漿カリクレイン・キニン系カスケードの活性化反応には、FXIIや高分子キニノーゲンと活性化表面との相互作用が関与している。すなわち、この活性化反応は、活性化表面上でFXIIが自己活性化することによって開始し、生成したカリクレインが活性化表面に結合したFXIIを開裂するという正のフィードバック機構により促進され、この結果、反応系全体が活性化される。これらの反応は大石教授の引用する方法には含まれておらず、したがって、これらのいずれの反応段階に対する阻害作用も測定することができず、この方法は「方法A」に代替できない。

ロ 大石教授は、前項の方法以外にもいくつかの方法を挙げ、「方法A」以外の方法でも血漿カリクレインの活性化阻害活性が測定できるとしている。

しかしながら、これについても、カプラン教授は次のような意見を述べている。

a フライバー、ギルモアの報文について

この方法は、接触系全体の活性化反応や、その活性化反応に対する阻害剤の評価には用いることができない。

b 岩永貞昭教授らの論文について

この論文では、いろいろな種類の基質がカリクレイン活性を測定するために使用可能であることが記載されているが、プレカリクレインがカリクレインに変換されるに至る一連の諸反応に対する活性化や阻害を取り扱うものではない。

c ラジオイムノアッセイを用いたFXIIとプレカリクレインの定量法

この方法は血漿中のそれぞれの蛋白質を測定するものであるが、反応系中にすべての血漿成分が存在する状態でのカリクレイン生成に対する活性化や阻害を取り扱うものではない。

d フレッチャー血漿(プレカリクレイン欠乏血漿)の凝固を用いる方法

この方法では、プレカリクレインとカリクレインとを区別できないため、プレカリクレインからカリクレインへの変換に至る一連の諸反応の評価に使用することはできない。

e 加藤らの方法

前記三2(二)(1) ハ (123頁〔同上、一一二一頁六行目〕)と同じ。

ハ ところで、大石教授は、甲六〇(平成八年六月四日付「カプラン教授のExpert Opinionについて」)では、次のような意見を述べている。

a カプラン教授の鑑定(甲四九)の結論は科学的に正しい。

b 「方法A」は次のような方法であり、従来行われていた、血漿中のプレカリクレインの全量を血漿カリクレインに変換し、変換された血漿カリクレインの量を測定することによって血漿プレカリクレインを定量するといった方法や、公知の数あるカリクレイン活性の測定方法の概念とは基本的に異なるものである。

<1> 血漿カリクレインの生成段階(カリクレイン生成量と反応時間との間に実質的直線関係が成立する段階)において、FXIIaの特異的阻害剤であるLBTIを添加し、血漿カリクレインの生成反応を停止させて、その時点でのカリクレイン生成量を特定することによりその定量的測定を可能にする。

<2> かかる測定値から被検薬物のカリクレイン産生阻害能を算出し、これを薬物の有する生理活性と結びつけるという新しい概念に基く方法である。

ニ 判断

大石教授(乙四六)は文献をあげるのみで、実際に他の方法で血漿カリクレインの活性化阻害活性が測定できることを、引用の文献に記載の方法を使用して実証しているものではない。その上、前掲甲六〇、六八の内容をも考慮すると、大石教授の意見(乙四六)をもって、本件特許方法に代替し得る、別異の構成のカリクレイン様物質阻害活性の定量的測定方法が存在するということを直ちに認めることはできない。

(3)  乙九(玄番教授作成「実験報告書」)において「第一次反応から第二次反応への移行を「直ちに」実施することにより、阻害剤を添加しなくても第二次反応におけるFXIIaによる影響はない」としていることについて

イ LBTIの添加により第一次反応で生成したカリクレインが安定的に保持されることについては甲三二に示されている。

また、LBTIを添加しなかった場合には第二次反応中においてもカリクレインが増加することは甲五三(図1、表1)に示されている。

ロ 一方、乙二一、二九においては、LBTIを加えた後でもカリクレインの産生が継続することが示されている。しかしながら、乙二九ではLBTI添加後の時間経過に伴い、吸光度(AT)の低下が見られたとしていながら、乙二一では、LBTI添加後の時間経過に伴って、吸光度(AT)の上昇が起こるとしていて、同一の実験者によってこのように正反対の結果が出るということは理解し難いというべきである。また、甲三二は、乙二一で採用している放置時間及び温度などの実験条件の設定は、実際の実験操作の上から、およそあり得ない常識の範囲を逸脱したものであり、KPI活性測定法に則した実験ではない、としている。右のとおりであるから、乙二一、二九の実験結果の信頼性は乏しいというべきである。

(4)  以上のとおりであり、本件特許方法の構成によらなくとも、カリクレイン様物質阻害活性を定量し得る方法が他に存在しているということを認めるに足りる証拠はないし、その存在の可能性を窺わせるような証拠もない。

3 控訴人医薬品の一部変更申請と被控訴人医薬品の製造承認審査に関する経緯

(一)(1)  前記第二の一2(一)、(二)並びに甲三(山口欣一郎作成「報告書(平成四年八月二八日付)」)、同四(別件準備書面)、同一六(山口欣一郎作成「報告書(平成六年三月四日付)」)、同四〇の一(山口欣一郎作成「報告書(平成六年九月二八日付)」)及び乙一七(医薬品インタビューフォーム「ノイロトロピン特号3cc」)によれば、次の事実が認められる。

イ 控訴人は、昭和六二年一〇月二日、別紙目録(一)記載の抽出液を有効成分(有効成分の表示-ノイロトロピン単位)とする「ノイロトロピン錠」の製造承認を得た。なお、控訴人は、その製造承認前の審査の際、中央薬事審議会新医薬品第三調査会から、「1 抽出物であるため有効成分が明らかでないので、生物活性を中心に検討すること、2 従来の鎮痛剤と作用機序が異なるため、それに基づいた検定法を確立し、これを用いて力価規格を決定すること」という二点につき指摘を受け、右指摘の趣旨に沿って研究を重ねた結果、右「ノイロトロピン錠」を開発するに到った。

ロ 一方、被控訴人は、同年一一月一三日、被控訴人医薬品につき製造承認申請をしたが、その際、有効成分の量の表示方法として「mg」を使用した。

ハ 控訴人は、同月二〇日「ノイロトロピン特号3cc」(控訴人医薬品)につき一部変更申請をした。この一部変更申請は、「ノイロトロピン特号3cc」(控訴人医薬品)が、その用いる原薬を、同年一〇月二日に製造承認を得た「ノイロトロピン錠」と同じくするところから、既に昭和二八年に製造承認を得て製造・販売を続けてきた「ノイロトロピン特号3cc」につき、有効成分の量の表示を従来の「mg」から「ノイロトロピン単位」に変更し、生物学的試験法として、カリクレイン様物質産生阻害活性(力価)試験及びSARTストレスマウスを用いて鎮痛係数を求める生物検定法を設定し、かつ新たに薬効としてスモン後遺症を追加することを目的としてなされたものである(すなわち、右の一部変更申請においては、当初よりその申請書にカリクレイン様物質産生阻害活性(力価)試験が記載されていた。)

(2)  右認定の経過によれば、被控訴人医薬品の当初の製造承認申請書に記載された「規格及び試験方法」は、中央薬事審議会新医薬品第三調査会から示された前記課題を解決するような内容のものでなかったことが合理的に推認し得るとして妨げない。

(二)(1)  甲三(山口欣一郎作成「報告書(平成四年八月二八日付)」)には、後発医薬品である被控訴人医薬品の審査状況に関して、控訴人の担当者(山口欣一郎)が厚生省の担当官から受けた説明の内容として、次の記載(一部)がある。

イ 厚生省薬務局審査課の担当官は、昭和六三年八月二三日、控訴人に対して「ノイロトロピン特号3cc」の後発医薬品の審査の参考とするために「ノイロトロピン特号3cc」(旧規格のもの。すなわち、昭和二八年承認当時のもの)の承認書の写し等の関係資料の提出を要請した。その際、同担当官は、控訴人に対して、「旧規格の『ノイロトロピン特号3cc』に基づいて後発医薬品の審査をするのではない、新薬として承認された『ノイロトロピン錠』など最近の承認事項をも参考にする。」という趣旨のことを述べた。

ロ 控訴人は、同年一〇月、厚生省に対して「ノイロトロピン特号3ccの『規格及び試験方法』については、ノイロトロピン錠の『規格及び試験方法』にカリクレイン生成阻害活性(KPI)の確認試験等の試験項目をも追加して、製造承認の一部変更承認申請をした」旨を伝えた。

ハ 厚生省の担当官は、平成三年一一月一三日、控訴人に対し、「KPIの測定法については公表論文(豊巻ら「血漿カリクレイン様物質産生阻害能を評価する in vitro 測定法」(基礎と臨床第二〇巻第一七号-昭和六一年一二月)(甲三添付資料4、甲六八別紙3))があることを承知している。『ノイロトロピン錠』の承認審査の際、中央薬事審議会新医薬品第三調査会でKPIについて審議され、その調査報告書にもその旨記載されている。」旨述べた。

ニ 厚生省の担当官は、同月二六日、控訴人に対し、「ノイロトロピン特号3cc」の規格及び試験方法は控訴人医薬品の一部変更承認申請においては実質審査が終了していること、後発医薬品の審査にもその点を含めて検討している旨述べた。

ホ 厚生省の担当官は、同四年二月二一日、控訴人に対し、承認申請に当たっては最新の科学レベルのものを要求する、「ノイロトロピン特号3cc」の一部変更承認申請の規格・試験方法は一応の評価を終えており、これらの内容で承認されることは容易に予測できる、既承認(一部変更承認申請以前の規格)のものと比較して審査するのではなく、審査時点の最新の科学技術レベルのもので判断するのが妥当である、後発品の承認時点では、先発医薬品の評価済みの規格及び試験方法と比較する旨の説明をした。

(2)  甲三の右各記載は、後発医薬品の一般的な製造承認審査の在り方に照らしてみても、合理的で、首肯し得るものであると認められる。

(三) 右(一)、(二)の認定事実のほか、被控訴人医薬品の製造承認申請当時後発医薬品の承認に係る標準的事務処理期間は二年(甲四〇の二)であったところ、被控訴人医薬品については申請から承認までに約四年三か月を要していること(控訴人医薬品についても一部変更申請から承認までに約四年半を要しているが、これは、新効能としてスモン後遺症状の冷感・痛み、異常知覚を追加したために、新薬の場合と同様の審査が行われたためであると認められる。甲四〇の一)を考慮すると、被控訴人医薬品の製造承認の審査業務に関与した厚生省の担当官は、被控訴人医薬品が控訴人医薬品と同一製剤であることから、右審査の際、既承認のノイロトロピン錠の承認規格及び控訴人医薬品の一部変更申請の申請書に記載されたカリクレイン様物質産生阻害活性試験すなわち「方法A」と対比しつつ、被控訴人に対して、「方法A」と同等以上の確認試験の方法を設定することを促すため相当綿密な指示、指導(申請書の返送を含む。)を行い、被控訴人も、これを受けて、「方法A」を考慮に入れないまま製造承認を得ることは困難であるという認識の上に立ち、右指示、指導に従って前記豊巻らの論文を含め種々の調査を行い、追試を繰り返したものと推認するのが相当である。

四  まとめ

1 前記(二3(五)、105頁〔同上、一一一三頁六行目〕)認定のとおり、被控訴人主張のイ号方法は、その開示されている事項が一部に過ぎないということを考慮に入れるとしても、抽象的な方法の域を出ないものであると言わざるを得ず、被控訴人が実際に右方法を実施しているとは認め難いというべきである。そして、本件特許方法以外に公知のカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法が存在することを認めるに足りる証拠はなく(前記三2(一)(4) 、118頁〔同上、一一一九頁五行目〕)、また、本件特許方法の構成によらなくともカリクレイン様物質産生阻害活性の定量を可能にする方法が存在しているということを認めるに足りる証拠もない(前記三2(二)(4) 、131頁〔同上、一一二五頁七行目〕)。そのほか、被控訴人医薬品の製造承認申請の経緯をみてみると控訴人医薬品の一部変更申請及び被控訴人医薬品の製造承認申請については同時進行で審査が行われたこと(前記三3、132頁〔同上、一一二五頁一一行目〕)、及び、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は多成分を含む、化学構造未詳の天然抽出物であることから、後発医薬品(被控訴人医薬品)が先発医薬品(控訴人医薬品)と品質、規格につきその同等性を担保するためには、先発医薬品と別異の無関係の方法を用いては、医薬品としての組成、力価につき品質の同一性を担保し難いと考えられること、以上の諸事情を総合すると、被控訴人医薬品はいずれも控訴人主張のイ号方法(すなわち、本件特許方法)を用いて製造されていると認めるのが相当であり、かつ、被控訴人医薬品のうち別紙目録(二)記載の製剤については控訴人主張のイ号方法(すなわち、本件特許方法)を用いて製造された上その販売がなされているものというべきである。

2 控訴人の本件各請求について

(一) 本件特許方法は、概念的にはいわゆる方法の発明(単純方法)として区分し得るものではあるが、もともと、薬事法上の「確認試験」は医薬品を構成する物質又は医薬品中に含有されている主成分などについてそれぞれの特異な反応を用いて特性に応じて試験し、その医薬品の同定に役立つ試験であって、医薬品としての品質を一定に保つための試験であるという特殊性から、また、本件特許方法は被控訴人医薬品の製造工程に必然的に組み込まれ他の製造作業と不即不離の関係で用いられていると考えられることから、本件の場合には、「方法の使用」即「物の生産」という関係が成立しているものとみることができる。してみると、本件特許方法は、その実質に即して、「物を生産する方法の発明」(製造方法)と同じく、本件特許方法を用いて製造された物の販売にまで、侵害停止を求め得る効力を有するものと解するのが相当である(被控訴人が平成四年一〇月上旬以降被控訴人医薬品を販売していることについては、当事者間に争いがない。)。そして、これに付随して、控訴人は、本件特許方法を用いて生産された物(被控訴人医薬品)の廃棄を求め得るというべきである。

さらに、被控訴人が、被控訴人医薬品のうち別紙目録(二)記載の製剤について健康保険法に基づき薬価基準の収載申請をしているということは、医薬品の販売行為そのものとは異なる行為であるとはいえ、少なくとも医薬品販売行為の準備行為として位置づけることができ、販売目的を離れては意味をもたない行為であるから、被控訴人医薬品を薬価基準から削除するための措置(薬価基準収載申請の取下げ)を求めることは本件特許権に対する侵害の予防に必要な行為(特許法一〇〇条二項)として許されると解するのが相当である。

(二) しかしながら、他方、控訴人の本訴請求のうち、控訴人が被控訴人に対して、被控訴人が被控訴人医薬品について薬事法に基づいて取得している各製造承認の取下げ及び右製造承認を被控訴人以外の第三者に承継、譲渡することの禁止を求める請求は、後発医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載された確認試験の方法と、現実に業として実施する場合の確認試験の方法とは必ずしも同じ方法であることを要しないということ(前記二1(二)(2) 、52頁〔同上、一〇九〇頁一行目〕)、及び、被控訴人医薬品の製造承認申請書のうち「規格及び試験方法」の欄に記載された確認試験の方法の内容が証拠上不明であるということ(前記二3、(二)、97頁〔同上、一一〇九頁一四行目〕)に照らし、本件特許権による禁止効の範囲外のこととして、いずれも認容できないというべきである。

第五結論

以上の次第であって、控訴人の請求は、被控訴人医薬品の製造・販売の差止、宣伝・広告の停止及び別紙目録(二)記載の製剤について薬価基準収載申請の取下げ並びに被控訴人の所有する被控訴人医薬品の廃棄を求める限度で理由があるのでこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであるから、これと結論を異にする原判決を右趣旨に従って変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用し、仮執行宣言はこれを付つないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野茂 高山浩平 長井浩一)

別紙特許公報<省略>

目録(一)

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液

目録(二)

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を有効成分とする製剤

目録(三)

別紙目録(一)記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第XII 因子活性化剤を加えて反応させた後、リマ豆トリプシンインヒビター等の活性型血液凝固第XII 因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ、生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する前記被検物質のカリクレイン産生阻害能測定方法。

目録(四)

A 本品を減圧乾固させてエタノールで抽出し、乾固させ、塩化ナトリウム溶液を加えて溶かし試料溶液とする。

この試料溶液に生理食塩液で希釈したヒト正常血漿溶液を加えた後、緩衝液で調製したカオリン懸濁液を加えて混和し、氷水中に20分間静置する(以上、第一次反応)。直ちに、この反応液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、20分間反応させた後、反応を停止させて遠心分離を行い、その上澄液の吸光度を測定して試料吸光度(AT)を求める(以上、第二次反応)。

B 一方、試料溶液の代わりに塩化ナトリウム溶液、カオリン懸濁液の代わりに緩衝液を用いて、前記の場合と同様に操作して、吸光度を測定して試料ブランク吸光度(ATB)を求める。

C 別に、カリジノゲナーゼ(別名、カリクレイン)標準品に緩衝液を加えて溶かし標準溶液とする。この標準溶液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、以下前記の二次反応と同様に操作して、吸光度を測定して標準吸光度(AS)を求める。

D 一方、標準溶液の代わりに緩衝液を用いて、標準溶液の場合と同様に操作して、吸光度を測定して標準ブランク吸光度(ASB)を求める。

E 前記各々の吸光度につき、試料吸光度(AT)から試料ブランク吸光度(ATB)を引いた値と、標準吸光度(AS)から標準ブランク吸光度(ASB)を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値より小さいときは、本品は規格に適合とする。

別表1、別表2、別表3<省略>

【参照】原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一 被告は、別紙目録(一)記載の抽出液を製造し、別紙目録(二)記載の製剤を製造し、該製剤を販売し、かつ、これらを宣伝広告してはならない。

二 被告は、別紙目録(一)記載の抽出液及び別紙目録(二)記載の製剤について薬事法に基づいて取得している各製造承認並びに別紙目録(二)記載の製剤について健康保険法に基づいて収載を受けている薬価基準をそれぞれ取り下げねばならない。

三 被告は、別紙目録(一)記載の抽出液及び別紙目録(二)記載の製剤について被告が薬事法に基づいて取得している各製造承認を他に承継せしめ、又は譲渡してはならない。

四 被告は、被告の所有する別紙目録(一)記載の抽出液及び別紙目録(二)記載の製剤を廃棄せよ。

五 訴訟費用は被告の負担とする。

六 仮執行の宣言

第二事案の概要

一 原告の権利

1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の特許発明を「本件発明」又は「本件特許方法」という。)を有している(甲第一号証、第二号証、第一九号証)。

(一) 発明の名称 生理活性物質測定法

(二) 出願日   昭和六二年九月八日(特願昭六二-二二五九五九号)

(三) 出願公告日 平成四年三月一一日(特公平四-一四〇〇〇号)

(四) 登録日   平成五年一月一九日

(五) 登録番号  第一七二五七四七号

(六) 特許請求の範囲

「1 動物血漿、

血液凝固第XII 因子活性化剤、

電解質、

被検物質、

から成る溶液を混合反応させ、次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、生成したカリクレインを定量することを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。

2 カリクレインに対する合成基質を用いて生成したカリクレインを定量する特許請求の範囲第1項記載の測定法。

3 動物血漿がヒト血漿である特許請求の範囲第1項記載の測定法。

4 ヒト血漿が加クエン酸血漿又は凍結乾燥品である特許請求の範囲第3項記載の測定法。

5 動物血漿が家畜又は実験用動物の血漿である特許請求の範囲第1項記載の測定法。

6 動物血漿がウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット又はマウスの血漿である特許請求の範囲第5項記載の測定法。

7 動物血漿を5乃至10倍希釈して用いる特許請求の範囲第1項記載の測定法。

8 0℃乃至4℃の反応温度下でカリクレイン生成反応を行う特許請求の範囲第1項記載の測定法。

9 血液凝固第XII 因子活性化剤がカオリンである特許請求の範囲第1項記載の測定法。

10 電解質が一価の正電荷イオンを含む化合物である特許請求の範囲第1項記載の測定法。

11 一価の正電荷イオンがナトリウムイオンである特許請求の範囲第10項記載の測定法。」(別添特許公報〔以下「公報」という。〕参照)

2 本件発明の構成要件

本件発明の構成要件は、以下のとおり分説するのが相当である(甲第一号証)。

(1)  動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質、から成る溶液を混合反応させ、

(2)  次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、

生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、

(3)  生成したカリクレインを定量すること

(4)  を特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。

3 本件発明の明細書の記載

本件発明の明細書には、発明の詳細な説明の欄に以下の記載がある(甲第一号証)。

(従来の技術)の項

「 カリクレインは種々の動物の血漿中並びに組織に広汎に存在するタンパク分解酵素であり、カリクレイン・キニン系なる酵素系が知られている。このカリクレイン・キニン系は生体内において、他の様々な酵素反応系、例えばレニアン・アンジオテンシン系、血液凝固系、線溶系、補体系やプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンを中心とするアラキドン酸カスケード並びにカテコールアミン等と密接な関連性をもって作用しており、生体内の機能調節に重要な意義を有している。従って、カリクレイン・キニン系は、他の酵素系と関連することにより血圧調節作用、血液凝固-線溶-補体系を通じての作用、或いはアラキドン酸カスケードにより生成する種々の生理活性物質による生体調整作用や末梢循環改善作用等に深く関わっているものである。カリクレイン・キニン系の生成産物であるキニン類は、末梢血管拡張に伴う降圧、血管透過性の亢進、平滑筋の収縮或いは弛緩、初痛、白血球の遊走、副腎皮質からのカツコールアミンの遊離作用など種々の生理活性を有するほか、アレルギー反応を含めた急性炎症のメディエーターとしても知られており、生体内における存在意義は大きい。従って、カリクレインの生成に作用する質、即ちカリクレインの生成を抑制或いは促進する物質の作用を簡便、且つ正確に測定する方法を確立することは、上記のような生体機能の調整に役立つ作用を知るうえで又かかる薬剤を開発する上で非常に有用な手段となるものである。尚、カリクレイン・キニン系自身は以下のような一連の酵素反応の上に成立するものである。即ち、この酵素系には血液凝固第XII 因子(ハーゲマン因子、以下FXIIと略す)が重要な役割を果しており、血漿中のFXIIはガラス、カオリン、エラジン酸等の負に荷電した物質、若しくはコラーゲン、ホモシスチン、血小板膜、硫酸化糖脂質等の生体内に存在する物質と接触することにより、或いは組織に対する侵害刺激等により活性化される。この活性化されたFXII(FXIIa)は同じく血漿中に存在するプレカリクレインに作用して、これをカリクレインへと変換し、このカリクレインが血漿中の高分子キニノーゲンに作用してノナペプチドであるブラジキニンを遊離させるという一連の反応が引き起こされることになる。さらに引き続いて、遊離されたキニン類は、前述のような作用により直接的には炎症、痛みやアラキドン酸カスケードに対する作用を引き起こすなど種々の影響を及ぼすことになる。本発明者らは、このようなカリクレイン・キニン系に関連する一連の酵素反応系を踏まえ、これらの反応を試験管内にて再構成することにより、本発明の反応系が作用物質の測定法として極めて有用で且つ信頼性が高く、又、操作も簡便であることを見出し本発明を完成した。」(公報3欄14行~4欄24行)

(問題点を解決するための手段)の項

「 好ましい態様としては、動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質、から成る溶液を混合反応させた後、該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、(以下第一次反応という)、次いでこの第一次反応液を、カリクレインに対する基質、緩衝液、から成る第二次反応液と複合反応させ(以下第二次反応という)、生成したカリクレインによる分解産物を定量する方法が挙げられる。本発明における反応系は、前期のように(「前記のように」の誤記と認める。裁判所注記)二段階の反応により構成されるものであり、第一次反応は血漿にカオリン等のFXII活性化剤を添加して活性型FXIIとすることにより、該血漿中のプリカリクレインからカリクレインを生成させる反応系である。引き続いて行われる第二次反応は、第一次反応で生成したカリクレインを定量する反応系であり、例えば、カリクレインの活性(生成量)をカリクレインに対する特異的基質を用いて測定する方法で行うことができる。」(公報5欄5行~33行)

「 第一次反応の反応時間は、第一次反応液中に加えた血漿の量、FXII活性化剤、被検薬の濃度或いは反応液のPH等によって変化するが、反応時間と生成したカリクレイン量(カリクレイン活性)との間に直線的な関係が成立する時間内に設定することが必要である。なぜならば、本発明測定法はカリクレイン生成に影響を与える生理活性物質の作用を、生成カリクレイン活性で定量する方法が好ましいため、カリクレイン活性が飽和してしまう時間前の直線部分で行わねばならないからである。しかしながら、実際の測定操作上の観点より15乃至30分の間に反応時間を制定することが実際的で好ましい。第一次反応の停止は、活性型FXIIのみを特異的に阻害してさらに余分のカリクレインが生成しないようにし、且つ第二次反応においては測定するカリクレイン活性には実際的に無影響な阻害剤を第一次反応系に添加することで行うことができる。このような阻害剤として、LBTI(Lima Bean Trypsin Inhibitor:リマ豆由来のトリプシンインヒビター)或いはCHFI(Corn Hageman Fragment Inhibitor:トウモロコシ由来のハーゲマンフラグメントインヒビター)等が挙げられる。」(公報6欄42行~7欄22行)

(実施例)の項

「 実施例1

動物血漿として、ヒト血漿を用いた場合についての実施例を以下に詳細に説明する。

(1)  ヒトクエン酸加血漿の調整

健常な成人より常法に従い、ヒト血液:三・八%クエン酸ナトリウム(9:1)となるように採血した後遠心分離し、ヒトクエン酸加血漿(以下単にヒト血漿という)を上清として得た。

(2)  第一次反応

ヒト血漿       〇・一ml

カオリン懸濁液    〇・五ml

塩化ナトリウム水溶液 〇・四ml

被検薬水溶液     〇・四ml

蒸留水        〇・四ml

(中略)

上記反応液を氷水浴中20分間反応させた後、〇・五mlのLBTI溶液〔45mg/ml・50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)〕を加え反応を停止した。」(公報8欄43行~9欄24行)

「 (3)  第二次反応

第一次反応液 〇・一ml

合成基質   〇・一ml

緩衝液    〇・二ml

(中略)

反応に際しては、上記反応液を30℃で20分間反応させた後、一%クエン酸〇・八mlを加え、必要に応じて遠心分離して懸濁物を除去した後、p―ニトロアニリンの四〇五nmにおける吸光度を測定した。」(公報9欄28行~39行)

(作用)の項

「 実施例1の反応系を用いて、インドメタシン、ケトプロフエン、モルヒネ、アミノピリン等の各種鎮痛剤のカリクレイン生成阻害活性を測定した。尚、これらの被検薬は中性付近の水溶液に調整して使用した。結果の一例を第1図に示す。第1図より明らかなように、鎮痛作用の一因がブラジキニンの遊離抑制作用であるインドメタシンやケトプロフエンは本発明測定法により顕著なカリクレイン生成阻害作用が観察されたが、中枢神経系に作用する鎮痛剤であるモルヒネやアミノピリンはカリクレイン生成阻害作用をほとんど示さなかった。さらに、本発明測定系において、最終生成物である発痛・起炎物質ブラジキニンの被検薬による遊離抑制作用を等べた結果の一例を第2図に示す。第2図より明らかなように、第1図で顕著なカリクレイン生成阻害作用を示した薬剤は、同様に優れたブラジキニン遊離抑制作用を有することが示された。以上のように、カリクレイン生成阻害(第1図)とブラジキニン遊離抑制(第2図)とは良く相関関係を示し、従って、本発明測定法はカリクレイン-キニン系に関与する生理活性物質の測定法として信頼性が高いものである。」(公報15欄10行~34行)

4 本件発明の概要(但し、本件発明の技術的範囲については後に判示する。)

本件発明の明細書の記載を総合すると、以下のとおり認められる。

(一) カリクレインは、種々の動物の血漿中及び組織に広汎に存在する蛋白質を分解する触媒機能を有する酵素蛋白質の一種であるが、動物の血漿中でこのカリクレインが生成する過程は一連の酵素反応(カリクレイン・キニン系)である。すなわち、別紙参考図に示すとおり、動物の血漿中にカオリン等の血液凝固第XII 因子活性化剤を添加すると、血漿中に存在する血液凝固第XII 因子(ハーゲマン因子FXII)は活性化されて活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)に変化する。この活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)は、同じく血漿中に存在するプレカリクレインに作用してこれをカリクレインに変換し、更にこのカリクレインが血漿中の高分子キニノーゲンに作用してノナペプチドであるブラジキニンを遊離させる。そして、この遊離されたブラジキニンが炎症、痛み及びアラキド酸カスケードに対する作用を引き起こす。

(二) 本件発明における反応系は、動物血漿、血液凝固第XII 因子活性化剤、電解質、被検物質から成る溶液を混合反応させた後、カリクレインの生成を停止させるために、カリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間(例えば反応開始から一五~三〇分間)内に、すなわちカリクレイン活性が飽和してしまう時間前の直線部分で、血漿中に残存している活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)の活性のみを特異的に阻害して余分のカリクレインが生成しないようにし、かつ、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響なLBTIのような阻害剤を添加し(以上、第一次反応)、次いで第一次反応液をカリクレインに対する基質及び緩衝液から成る第二次反応液と混合反応させる(以上、第二次反応)という二段階の反応により構成されている。そして、第一次反応及び第二次反応は一連の酵素反応に基づくものであり、これら酵素反応系における酵素量は物質量として表わされるものではなく、単位時間当たりに当該酵素によって生成される反応生成物量(酵素活性)として測定されるものであって、結局、本件発明における被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定は、第一次反応で生成したカリクレインを第二次反応において定量することにより行うものとされる。

二 原告のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする製剤(注射剤)の医薬品製造承認及び製造販売

原告は、別紙目録(一)記載の抽出液及びそれを有効成分とする別紙目録(二)記載の製剤(注射剤)について、昭和二八年九月五日、承認番号(阪薬)第八一三四号により厚生大臣から薬事法に基づく製造承認を受け、昭和五一年九月一日健康保険法に基づく薬価基準の収載を受け、同年一一月一日から右抽出液を製造して、一管三ミリリットル中右抽出液三・六ノイロトロピン単位を含有する水性注射液として製剤のうえ、「ノイロトロピン特号3cc」の商標の下に鎮痛・鎮静・抗アレルギー剤として販売している(以下、右抽出液及び製剤をまとめて「原告医薬品」という。)。原告は、昭和六二年一一月二〇日付で厚生大臣に対し、原告医薬品について薬事法一四条四項の規定により医薬品製造承認事項一部変更承認を申請し(以下「一部変更申請」という。)、平成四年五月一一日付で厚生大臣から承認を受けた。なお、原告は、昭和六二年一〇月二日付で別紙目録(一)記載の抽出液を有効成分とする錠剤(ノイトロピン錠)について厚生大臣から薬事法に基づく製造承認を受けた(甲第一六号証、第一七号証、乙第一〇号証、第一七号証、弁論の全趣旨)。

三 被告のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする製剤(注射剤)の医薬品製造承認及び製造販売

被告は、別紙目録(一)記載の抽出液(FN原液「フジモト」)及びそれを有効成分とする別紙目録(二)記載の製剤(注射剤)について、昭和六二年一一月一三日付で厚生大臣に対し、先発医薬品である原告医薬品と規格が同等又はそれ以上である後発医薬品として、薬事法一四条一項の規定により医薬品製造承認申請をし、平成四年二月二一日、厚生大臣から承認を受け、同年七月一〇日付で右製剤(注射剤。商品名「ローズモルゲン注」)について、健康保険法に基づく薬価基準の収載を受け(以上、争いがない。)、同年一〇月上旬からこれを販売している(弁論の全趣旨。以下、右抽出液及び製剤をまとめて「被告医薬品」という。)。

四 医薬品の規格及び試験方法に関する法制の概略と原告医薬品及び被告医薬品におけるカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の実施

1 医薬品製造業者は、厚生大臣に対し医薬品の製造承認を申請する際には、薬事法一四条一項、薬事法施行規則一七条に基づき、様式第十(一)による医薬品製造承認申請書に申請に係る医薬品の「規格及び試験方法」を記載することが義務づけられており、厚生大臣から製造承認が与えられるときは、医薬品製造承認書の一部として右医薬品製造承認申請書が添付されることになる。この医薬品製造承認申請書の「規格及び試験方法」欄の記載方法については、「医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」(昭和五五年五月三〇日薬審第七一八号・都道府県衛生主管部〔局〕長あて・厚生省薬務局審査課長、同生物製剤課長通知)3(4) ア8により、「確認試験」の項目が設定されなければならないものとされている(甲第七号証の2四一八頁)。そして、財団法人日本公定書協会編「医薬品製造指針(一九九一年版)」(平成三年九月一七日株式会社薬業時報社発行)第II部第1章「7 承認申請書の記載要領」の「(8) 規格及び試験方法」欄によれば、確認試験は、当該医薬品が目的物であるか否かを確認するために必要な試験であり、原則としてすべての有効成分について記載することが必要であるとされている(甲第一一号証の4七二頁)。

薬事法に基づいて定められた「医薬品の製造管理及び品質管理規則」(昭和五五年厚生省令第三一号)によれば、医薬品の製造業者は、製造所における医薬品の製造管理及び品質管理を適切に行うため、医薬品の品目ごとに、製造承認事項、製造手順その他必要な事項について記載した製品標準書を当該医薬品の製造に係る製造所ごとに作成しなければならないとされ(三条)、さらに、製造所における医薬品の品質管理を適切に行うため、製造所ごとに、検体の採取方法、試験検査結果の判定方法その他必要な事項を記載した品質管理基準書を作成しなければならず(六条)、品質管理責任者に、製品標準書又は品質管理基準書に基づき、試験検査実施計画書を作成して原料及び製品についてはロットごとに、資材については管理単位ごとに試験検査を行うのに必要な検体を採取し、その記録を作成し、採取した検体について、ロットごと又は管理単位ごとに試験検査を行い、その記録を作成すること、試験検査結果の判定を行い、その結果を医薬品製造管理者及び製造管理責任者に対して文書により報告すること、試験結果に関する記録を記録の日から三年間保存することなどの医薬品の品質管理に係る業務を適切に行わせなければならない(七条)、とされている。

2 別紙目録(二)記載の製剤に有効成分として含まれている別紙目録(一)記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液は生体の皮膚組織から抽出された成分未詳の天然物質であり、化学合成医薬品のように化学構造によってそれを構成している化合物を特定することができないから、原告及び被告は、原告医薬品、被告医薬品の製造承認を申請する際、右抽出液の品質規格の検定のために医薬品製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に多項目にわたる規格及び試験方法のうちの一項目としてカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法を記載することを法律上義務づけられており、現実に業として原告医薬品、被告医薬品を製造する際にも確認試験を実施している(争いがない。)。

五 被告が現実に業として実施している被告製品のカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法

被告が被告医薬品の品質規格の検定のために、多項目にわたる規格及び試験方法のうちの一項目としてカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を実施していることは前示のとおり当事者間に争いがないが、その方法(以下「イ号方法」という。)の具体的な内容については当事者間に争いがあるところ、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

1 原告主張のイ号方法

原告が主張するイ号方法の具体的な内容は別紙目録(三)記載のとおりであり、これは以下のとおり分説するのが相当である。

(1)  ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第XII 因子活性化剤を加えて反応させた後、

(2)  リマ豆トリプシンインヒビター等の活性型血液凝固第XII 因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ、

(3)  生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する

(4)  前記被検物質のカリクレイン産生阻害能測定方法。

2 被告主張のイ号方法

被告が主張するイ号方法の具体的な内容は別紙目録(四)記載のとおりであり、これは同目録のA~Eのとおり分説するのが相当である。

六 原告の請求

本件は、

原告が、原告医薬品や被告医薬品のようなワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法としては、現在までに本件特許方法が唯一知られているだけであるところ、被告主張のイ号方法は、カリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定法ではなくて単なる定性的測定法にすぎず、しかもカリクレイン・キニン系の反応において、LBTIのような生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤を用いておらず、また、その方法中のエタノール処理によりワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液のカリクレイン様物質産生阻害活性は失活するので、本件特許方法のようなカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定法と同等又はそれ以上の方法としてそれに代替し得る方法とはなり得ないから、被告医薬品が原告医薬品と同等又はそれ以上の薬効を有する後発医薬品として厚生大臣から医薬品製造承認を受けた以上、被告医薬品の製造承認申請書中の「規格及び試験方法」の欄にはカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として本件特許方法に該当する原告主張のイ号方法が記載されているに相違なく、現実に被告が業として実施している被告医薬品の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の試験方法も原告主張のイ号方法以外にはあり得ない、

と主張し、このことを前提に、

<1> 被告が被告医薬品を製造販売すれば必然的に本件発明を実施することになり本件特許権を侵害することになると主張して、別紙目録(一)記載の抽出液の製造、別紙目録(二)記載の製剤の製造、該製剤の販売及びそれらの物の宣伝広告の停止を求めるとともに、

<2> 被告が原告主張のイ号方法を医薬品製造承認申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載して被告医薬品につき厚生大臣の製造承認を受けたことは、本件特許方法に該当する原告主張のイ号方法を実施する準備行為であるから除去されねばならず、健康保険法に基づく薬価収載によって取得している被告医薬品の製造販売に関する資格を喪失させる必要があると主張して、本件特許権の侵害の予防のため特許法一〇〇条二項に基づき、被告が被告医薬品について薬事法に基づいて取得している各製造承認及び別紙目録(二)記載の製剤について健康保険法に基づいて収載を受けている薬価基準の各取下げを、

<3> 被告が被告医薬品の製造承認によって得ている地位(それは本件特許方法に該当する「規格及び試験方法」の定めを含むものである。)を第三者に承継せしめ、又は譲渡すること(薬事法施行規則二一条の六参照)により本件特許権侵害が更に拡散することを防止する必要があると主張して、右承継、譲渡の禁止を、

<4> 被告の所有する被告医薬品の廃棄を

各求めたものである。

七 争点

本件の争点は、被告が被告医薬品の品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として(本件特許方法に該当する)原告主張のイ号方法を実施しているか否かという点に尽きるが、この点を判断するためにより具体的に以下の点が争いとなっている。

1 本件特許方法は、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として現在までに知られている唯一の方法であるか。

2 被告主張のイ号方法は、本件特許方法と同等又はそれ以上の方法としてそれに代替し得る方法とはなり得ないか。すなわち、

(一) 被告主張のイ号方法は定性的試験方法か、定量的試験方法か。

(二) LBTIのような生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤を用いない被告主張のイ号方法は、生成カリクレインを定量するための測定法とはなり得ないか。

(三) 被告主張のイ号方法中のエタノール抽出処理により、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液のカリクレイン様物質産生阻害活性は失活するか。

3(一) 原告が原告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法。

(二) 被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(後発医薬品である被告医薬品の製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」は、先発医薬品である原告医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と内容的に同じでなければ、厚生大臣から製造承認を受けることができないか。この点に関する厚生省の審査実務はどうなっているか。)

(三) 右(二)の方法と、被告が現実に業として被告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法とは、必ず同じ方法でなければならないか(医薬品の製造業者は、現実に業として医薬品を製造する際、当該医薬品の確認試験の方法を変更することは許されるか。)

第三争点に関する当事者の主張

一 本件特許方法は、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として現在までに知られている唯一の方法であるか(争点1)。

【原告の主張】

1 被告医薬品の製造承認申請時及びこれに対する厚生大臣の製造承認時はもちろん、現在においても、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液の品質規格を検定するためのカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法(カリクレインの産生量をいかほど阻害するかということを測定する。)としては、本件特許方法が唯一知られているだけであり、それ以外の方法は知られていない。そして、本件特許方法は、昭和六一年一二月二〇日発行の「基礎と臨床」第二〇巻第一七号所載の「血漿カリクレイン様物質産生阻害能を評価する in vitro 測定法」と題する論文(原告の生物活性科学研究所豊巻芳男ら。甲第三号証の添付資料4)によって既に公表済みであった。したがって、被告は、昭和六二年一一月一三日厚生大臣に対し被告医薬品の製造承認を申請した後、厚生省の指導を受けて本件特許方法に該当する原告主張のイ号方法によるカリクレイン様物質産生阻害活性の測定試験を行い、その試験結果のデータを添えて右方法を被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載して、製造承認を受けたものと推定する外はない。

2 被告は、被告医薬品につき厚生大臣から製造承認を受けた「規格及び試験方法」中にカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法が含まれていることは争わず、それが本件特許方法に該当する方法であることを否認しているが、単に否認するにとどまり、製造承認を受けた方法がいかなるものであるかについては主張せず、医薬品製造承認申請書の提出も拒んでいるから、前記の推定を覆すことはできない。

3 被告は、右のように被告医薬品につき厚生大臣から製造承認を受けたカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法を明らかにしないまま、被告医薬品の製造に当たっては被告主張のイ号方法を実施しているとし、それが本件特許方法と同等性のあるものである旨主張しているが、その主張の趣旨は必ずしも明確ではない。

被告医薬品の製造承認申請に当たり、被告主張のイ号方法をもって承認を受けることが、本件特許方法との同等性のゆえに可能であったことを主張するものであるとすれば、被告主張のイ号方法をもって製造承認を受けたとの主張を伴わなければ無意味である。

本件特許方法に該当する方法によって被告医薬品の製造承認を受けたが、実際の製造に当たっては被告主張のイ号方法を実施することが両者の同等性のゆえに許されることを主張するものであるとすれば、本件特許方法に該当する方法により製造承認を受けた旨の主張がない以上、主張としての体をなさない。医薬品の製造に当たっては、製造承認に係る方法自体又はその方法と同等性のある方法の外は実施することができないからである。

あるいは、本件特許方法がカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法として唯一のものであり、これと同等ないしこれより優れた定量的なカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法は存在しない旨の原告の主張に対する単なる積極否認であり、同等性のある測定方法として被告主張のイ号方法が存在する旨を主張しているにすぎないのであれば、被告は、被告が被告主張のイ号方法を実施していることの正当性の主張を放棄しているものといわなければならない。けだし、被告主張のイ号方法が仮に本件特許方法と同等性のある方法であるとしても、製造承認を受けた方法と無関係に被告がこれを実施し得るものではないので、製造承認を受けた方法を明らかにしない以上、被告が被告主張のイ号方法を実施することの正当性を認めるに由ないからである。

【被告の主張】

1 ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液の品質規格を特定するためのカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法としては、本件特許方法が唯一知られているだけであり、それ以外の方法は知られていない、との原告の主張には二つの誤りがある。

第一の誤りは、カリクレイン様物質産生阻害活性の試験方法は本件特許方法以外に知られていないとする点である。原告は、被検薬のカリクレイン様物質産生阻害能であるカリクレイン様物質産生阻害活性は、被検薬の非存在下における血漿中のカリクレイン生成量を対照基準値とし、これと被検薬の存在下における血漿中のカリクレイン生成量との差によって求められるとするが、その具体的な操作はカリクレイン活性の測定そのものである。しかして、カリクレインは酵素であり、その生成量を測定することは、すなわちカリクレイン活性の強さを測定することである。一般に行われる発色性合成基質を用いるカリクレイン測定法は、カリクレイン活性に対し特異性のある合成基質を使用し、吸光度を測定するというものであり、現実の操作としては、比色計の表示した数値を読み、吸光度の値を知るのである。本件特許方法はカリクレイン活性の測定のため、LBTI等の阻害剤を添加することを特徴としているが、右阻害剤を添加してカリクレイン活性の測定を行うのは、本件特許出願前の公知の技法である(乙第四号証)。

原告の主張は、本件特許方法が唯一の「正確」かつ「定量的な」測定方法であるとも言い換えられている(後記二2【原告の主張】(一))。原告も、被告主張のイ号方法がカリクレイン様物質産生阻害活性の定性的測定方法であること自体は認めているのであるから、そのような主張に後退せざるを得ないのである。結局のところ、原告の「本件特許方法以外には知られていない」との主張の実質は、本件特許方法は他の方法よりもより正確にカリクレイン様物質産生阻害活性を測定できる方法であるというにすぎず、原告主張の破綻は明白である。そして、その正確性についても、LBTIを用いた本件特許方法による測定結果とこれを用いない測定方法による結果とは科学的に同等であることが実証されているのである(乙第九号証、第一五号証、第一九号証)。

原告の主張の第二の誤りは、本件特許方法を、「ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液の品質規格を検定するためのカリクレイン様物質産生阻害活性の定量的測定方法」であるとする点である。本件特許方法は、医薬品の品質規格を検定するための試験方法の操作の一部ではあるが、右試験方法そのものではない。医薬品の品質規格を検定するための試験としては、カリクレイン活性を測定する操作すなわちカリクレイン様物質産生阻害活性を測定する操作だけでは足りず、被検薬の前処理、対照基準の設定等の多くの操作や条件設定が必要である。しかるに、甲第一七号証添付の公証人の認証文言ある原告医薬品の昭和六二年一一月二〇日付医薬品製造承認事項一部変更承認申請書の抄本は、原告医薬品の「規格及び試験方法」のうち前処理から始まるほとんどの操作や実験条件を秘匿しており、被告が被告主張のイ号方法を開示したことに対応する誠実な態度とは到底いえない。しかも、その僅かに開示された部分をみても、右「規格及び試験方法」が本件特許方法そのものと異なることは明らかである。

二 被告主張のイ号方法は、本件特許方法と同等又はそれ以上の方法としてそれに代替し得る方法とはなり得ないか(争点2)。

1 被告主張のイ号方法は定性的試験方法か、定量的試験方法か(争点2(一))。

【原告の主張】

(一) 本件特許方法が定量的測定方法であるのに対して、被告が現実に業として実施していると主張する被告主張のイ号方法は、定性的試験方法であるにすぎず、しかも、定性的試験方法としても信頼に値する方法ではないから、本件特許方法と同等又はそれ以上の方法ではあり得ず、本件特許方法に代替し得る方法とはなり得ない。

被告は、被告主張のイ号方法が定性的試験方法であることは認めながら、原告が原告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験も定性的試験方法である旨主張するが、原告の実施している方法は、被告主張のイ号方法のように試料溶液を操作して得られる試験比色液について吸光度を測定してその測定値とカリジノゲナーゼ標準品を操作したものの吸光度との大小を比較するにとどまらず、試料比色液と対照比色液との吸光度の差が一定の数値以上あること(P-ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度〇・一〇より大きいこと)を確認するものであるから、定量法である。

(二) 被告は、被告主張のイ号方法の操作は乙第二号証(臨床化学第一〇巻第二号〔一九八一年〕所載の大出博功らの「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文)記載の方法を応用したものである旨主張するが、右乙第二号証記載の方法は単なる血中カリクレインの測定法にすぎず、カリクレイン様物質産生阻害活性能の測定については全く触れるところがないから、被告主張のイ号方法が測定の目的及び対照を異にする乙第二号証の方法を応用したものという余地はない。

また、被告は、被告主張のイ号方法は被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性の存在を確認することを目的としたものであって、右阻害活性能の定量自体を目的とするものではないと主張するが、先発医薬品たる原告医薬品につき右阻害活性能を定量的に測定し得る方法が開示されていたのであるから、これと同等又はそれ以上の厳密な確認試験が要求されることになる後発医薬品たる被告医薬品の製造承認に当たって、右阻害活性の定量的な測定ができないような、精度の劣る確認試験の方法を厚生大臣が認めるとは考えられない。

【被告の主張】

(一) 被告主張のイ号方法の操作は、乙第二号証(「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文)記載の方法を応用したものであって、本件特許方法で必須とされるLBTIのような活性型血液凝固第XII 因子に対する特異的阻害剤を使用していない。

また、被告主張のイ号方法は、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性の存在を確認することを目的としたものであって、右阻害活性能の定量自体を目的とするものではない。

(二) 原告は、本件特許方法が定量的測定法であるのに対して被告主張のイ号方法は定性的測定法であるとの理由で、被告主張のイ号方法は本件特許方法に代替し得るものではない旨主張するが、直接的に対比することのできない本件特許方法と被告主張のイ号方法とを、定量的測定法と定性的測定法という一見単純な対比に置き換えて誤導しようとするものであって不当である。

被告主張のイ号方法中の吸光度測定操作は具体的な測定値を得るのであるから、定量的測定法であるが、確認試験たる被告主張のイ号方法は、被告医薬品がカリクレイン様物質産生阻害活性を有するときに品質規格に適合するとする確認試験、すなわち、試料吸光度(AT)から試料ブランク吸光度(ATB)を引いた値と、カリジノゲナーゼを用いた標準溶液の標準吸光度(AS)から標準ブランク吸光度(ASB)を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値よりも小さいときは(すなわち一定以上の差があれば)規格に適合するとするものであるから、定性的試験方法である。原告が原告医薬品について実施しているというカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験も、吸光度測定操作を取り上げれば定量的測定方法であるが、確認試験それ自体は「試料比色液と対照比色液の吸光度差がp―ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度よりも大きい」とき(すなわち一定以上の基準を満たせば)品質規格に適合するとするものであり(甲第一七号証)、カリクレイン様物質産生阻害活性の存在を確認する定性的試験方法である。本件特許方法と対比の対象となるのは、被告主張のイ号方法中の吸光度測定操作の部分であって、被告主張のイ号方法そのものではない。

2 LBTIのような生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤を用いない被告主張のイ号方法は、生成カリクレインを定量するための測定法とはなり得ないか(争点2(二))。

【原告の主張】

(一) 本件特許方法は、LBTIを使用することによって初めて、被検薬剤のカリクレイン産生阻害能を正確かつ定量的に測定することに成功したものである。

(二) 被告主張のイ号方法は、LBTIのような阻害剤を全く用いない点で本件特許方法と相違しているが、LBTIのような阻害剤を全く用いずにカリクレイン様物質産生阻害能を定量的に測定することは不可能である。

この点は、甲第二二号証(大阪大学歯学部教授猪木令三作成の平成五年三月二九日付「カリクレイン産生阻害能の測定法に関するコメント」と題する書面)、甲第三四号証(原告の生物活性科学研究所生化学部生化学研究室医学博士西川勝巳〔以下「西川」という。〕作成の平成六年九月一〇日付陳述書(I))、甲第三七号証(九州大学名誉教授大村裕作成の平成六年九月三〇日付陳述書)及び甲第三八号証(神戸学院大学薬学部薬理学教室教授岡本博〔以下「岡本」という。〕作成の平成六年一〇月五日付「コメント」と題する書面)によって明らかである。右甲号各証の要旨を摘記すると以下のとおりである。

(1)  被検薬のカリクレイン様物質産生阻害能であるカリクレイン様物質産生阻害活性は、被検薬の非存在下における血漿中のカリクレイン生成量を対照基準値とし、これと被検薬の存在下における血漿中のカリクレイン生成量との差を求めることによって測定される。

(2)  しかし、血漿中に存在するカリクレインの前駆物質であるプレカリクレインの量はもともと有限であり、カリクレイン生成反応の進行に伴ってその量が減少するため、単位時間当たりに生成するカリクレインの量も反応時間の経過とともに減少していく。したがって、被検薬のカリクレイン様物質産生阻害能であるカリクレイン様物質産生阻害活性を測定するには、カリクレインの生成量と反応時間との間に正比例の直線的増加関係が成立する反応時間内においてカリクレインの生成量が測定されなければならない。それ故、この測定は、右の直線的増加関係が成立する反応時間内に一定の測定点を定め、該測定点における生成カリクレインの量を正確に測定することができなければ成り立たない。そのためには、該測定点において生成したカリクレインの量及びその生成カリクレインの活性には影響を与えることなく、しかもカリクレインの生成反応を確実に測定点で停止する手段が講じられねばならない。

(3)  この目的のために添加するのがLBTI(リマ豆由来のトリプシンインヒビター)であって、LBTIの添加により、活性型血液凝固第XII 因子が特異的に阻害され、カリクレインの生成反応は完全に停止し、その時点におけるカリクレインの生成量が増減なく特定される。LBTIを添加しなければ、測定点におけるカリクレインの生成量を特定することができず、前記の被検薬の非存在下と存在下における血漿中のカリクレイン生成量の差を求めることはできない。

すなわち、LBTIのような阻害剤を使用しなければ、<1> 一定反応時間後においてもカリクレイン生成反応が停止せず連続して進行することとなり、測定点におけるカリクレインの生成量を特定することができず、<2> まして、定量的測定法に必須の前提条件たる「カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間」が何時から何時までかということを確認することができず(乙第二号証の図1において、反応時間五分と一〇分との二つの測定点が示されておりこの二点が線分〔直線〕で結ばれているが、測定点を増加してより細かい時間間隔で測定しそれらの測定点をプロットしたうえで結べば、直線で結ばれていた部分も決して直線とならないのである。)、<3> 生成カリクレインの定量に用いられる合成発色基質は活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)によっても分解され、カリクレインと同様に発色するので、反応系中で生起するこのような副次的な反応をトリプシンインヒビターのような阻害剤によって抑制しない限り、右のような直線的な関係が成立する正確な定量的カリクレインの産生検量線を求めることは不可能である。

(三) これに対して、被告は、乙第二号証(「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文)、乙第九号証(大阪薬科大学教授医学博士玄番宗一〔以下「玄番」という。〕作成の平成五年四月二六日付実験報告書)等を引用し、被告主張のイ号方法は乙第二号証記載の方法を応用したものであるので、阻害剤を全く用いなくても被検薬のカリクレイン様物質産生阻害能を測定することは可能である旨主張するが、以下のとおり誤りである。

(1)  乙第二八号証(被告の社員加藤景子〔以下「加藤」という。〕及び関弘一〔以下「関」という。〕作成の平成六年八月三一日付「乙第二号証のプレカリクレイン定量法(変法)の追試報告書(Table2の被検物質を用いて)」)は、乙第二号証にTable2(一四五頁)として記載されている方法の変法と称する方法を用いた実験とその結果であるというが、その「考察」の項(六頁)の、「ヘパリンナトリウムの濃度が濃くなることにより、阻害率が高くなり、100U/mlにおいてカリクレイン様物質産生をほとんど阻害することが判った。」、「乙第二号証のプレカリクレイン定量法で合成基質S-2302を用いて容易にカリクレイン様物質産生阻害活性が測定できることが判った。」、「乙第二号証のTableのデータでカリクレイン様物質産生阻害活性が測定されていることが確認できた。」との記載は全くの誤りである。

(2)  確かに、乙第二号証のTable2には抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを用いた場合における Spontaneous(血漿中にもともと存在する)カリクレインの量やプレカリクレインの量が、クエン酸ナトリウムやEDAT-2Naを用いた場合の量と対比して記載されている。そして、乙第二〇号証の1~4(大阪薬科大学第一分析学教室教授千熊正彦作成の平成六年八月二五日付報告書)には、このヘパリンナトリウムを用いた場合におけるプレカリクレインの量とクエン酸ナトリウムやEDTA-2Naを用いた場合のプレカリクレインの量との差は、ヘパリンナトリウムのカリクレイン様物質産生阻害能を示している旨の記載がある(乙第二〇号証の1三頁)。

しかし、甲第四二号証(Journal of Laboratory and Clinical Medicine 第七六巻第五号〔一九七〇年〕所載の「コンドロイチン硫酸、ヘパリン、キチン硫酸及びヒト関節軟骨によるキニン様物質の産生‥その病態生理学的意味について」と題する論文)に、「ヘパリンは7.5U/ml以上の濃度において、正常ヒト血小板欠乏血漿からキニン様活性の産生を誘発させた」(七九四頁)との記載があり、また、甲第四三号証(Thrombosis Research 第七巻第一号〔一九七五年〕所載の「アンチスロンビンIII 及びヘパリンによる精製血漿カリクレインの阻害」と題する論文)に、「血漿カリクレイン活性は、ヘパリン又はアンチスロンビンIII と共に保温すると阻害作用は認められなかった。しかしながら、ヘパリン及びアンチスロンビンIII の両方が保温溶液中に共存すると、カリクレインは急速に活性を失った。」(二二五頁)との記載があるように、

<1> ヘパリンは、乙第二〇号証の1~4や乙第二八号証に記載されているようにカリクレインの産生を阻害するのではなく、プレカリクレインを活性化して、逆に、カリクレインの産生を促進する。Table2においてプレカリクレインの量が減少しているのは、プレカリクレインの活性化によってカリクレインの産生が促進されたことによるのである。

<2> また、このようにして産生したカリクレインは、血漿中のアンチスロンビンIII とヘパリンとの協同作用によって活性を失うのであって、決してヘパリンがカリクレインの産生を阻害するのではない。

それ故、乙第二号証には、どこにもカリクレイン様物質産生阻害能を測定し得る方法が記載されていないのであり、乙第二〇号証の1における「そのクエン酸ナトリウム添加時の産生したカリクレイン値とヘパリンナトリウム添加時の産生したカリクレイン値の差は、ヘパリンナトリウムが示すカリクレイン様物質産生阻害能といえます。」との結論は誤りであり、したがって、乙第二八号証において、同号証記載の実験データをもって「乙第二号証のTableのデータでカリクレイン様物質産生阻害活性が測定されていることが確認できた。」(乙第二八号証六頁)としている結論もまた誤りである。

(四) 被告主張のイ号方法を追試したという乙第八号証(加藤・関作成の平成五年三月二日付「イ号方法による追試実験報告書」)には被告主張のイ号方法の実験条件が記載されているが、被告主張のイ号方法が決して正確かつ定量的なカリクレイン産生阻害活性の測定方法であり得ないことは、甲第三五号証(西川作成の平成六年九月二〇日付陳述書(II))により明らかである。

(五) 乙第一九号証(玄番作成の平成五年一二月二〇日付実験報告書II)が誤りであることは、甲第三八号証(岡本作成の平成六年一〇月五日付「コメント」と題する書面)及び甲第三九号証(大阪大学名誉教授猪木令三作成の平成六年一〇月七日付「実験報告書IIに対するコメント」と題する書面)により明らかである。なお、甲第三二号証(原告の西川及び同じく生物活性科学研究所生化学部生化学研究室医学博士家後壽〔以下「家後」という。〕作成の平成六年九月九日付実験報告書(I))及び甲第三三号証(同人ら作成の同日付実験報告書(II))にも同様の批判が述べられている。

【被告の主張】

(一) 被告主張のイ号方法は乙第二号証記載の方法を応用したものであるので、阻害剤を全く用いなくても被検薬のカリクレイン様物質産生阻害能を測定することが可能である(乙第八号証、第九号証、第一三号証)。

(二) 原告は、LBTIのような阻害剤を使用しなければ、一定反応時間後においてもカリクレイン生成反応が停止せず連続して進行することとなり、測定点におけるカリクレインの生成量を特定することができない旨主張するが、一般に行われているカリクレイン測定法においても、二次反応中に少量のカリクレインが生成したり、活性型血液凝固第XII 因子、血漿中の別の酵素活性等諸因子の影響も受けると考えられ、被告主張のイ号方法に対する原告の論難がそのままあてはまるはずである。しかし、実際には、実験目的から無視できるものとされたり、補正により処理されており、特異的阻害剤を用いることなしにカリクレイン測定は広く実施されている。

第二次反応中にカリクレインの生成があるとしても、また、活性型血液凝固第XII 因子による合成基質の分解が生じるとしても、第一次反応から第二次反応への移行を直ちに行うことによりその影響を無視できるのである。

また、被告主張のイ号方法で使用される合成基質(D-Pro-Phe-Arg-pNA s-2302)は、他の合成基質と比較してカリクレインに対する特異性が極めて高く、活性型血液凝固第XII 因子による影響は他の合成基質よりも僅少であり、右因子の存在が被告主張のイ号方法による測定を不可能ならしめることはない。

原告は、LBTIの添加により、カリクレインの生成反応は完全に停止し、その時点におけるカリクレインの生成量が増減なく特定されると主張するから、原告の主張に従えば、一次反応終了後に反応液を放置し時間が経過しても、生成したカリクレイン量は安定的に維持されるはずであるが、以下のとおり、原告の主張は単なる理論的な仮説にすぎず、誤りであることが実証されている。

(1)  乙第二一号証(加藤・関作成の平成六年八月二三日付「カリクレイン様物質産生阻害活性測定法の追試実験報告書(リマ豆トリプシンインヒビターについての検討)」)の実験結果によれば、一定時間の経過によりLBTI存在下でも三〇分ないし二時間放置すると、カリクレイン量は時間により大幅に変動し、決して安定してはいないことが確認された。

甲第三二号証(西川・家後作成の平成六年九月九日付実験報告書(I))の実験では、LBTI添加後0℃の条件下で二〇分経過まではカリクレイン活性は安定しているとし、乙第二一号証の実験において検討された放置時間及び温度等の実験条件の設定はおよそあり得ない常識の範囲を逸脱したものであるとしているが、乙第二一号証の実験は室温及び0℃の条件下で三〇分経過後のカリクレイン活性を測定した結果変動していることを確認しているのであるから、甲第三二号証の実験結果は乙第二一号証とは実験条件が異なり、同号証の実験結果を揺るがすものではない。本件明細書の実施例では、二次反応は三〇℃の条件下で行われているのであるから、三〇℃の条件下での実験結果でなければ反証として不十分である。

(2)  乙第二九号証(加藤・関作成の平成六年一〇月三一日付「追試実験報告書(LBTI添加による産生された血漿カリクレイン活性の保持)」)は、LBTIを添加し、乙第二一号証とも甲第三二号証とも異なる条件下で、すなわち、二±一℃の条件下で二〇分経過後のカリクレイン活性を測定したものであるが、これにより、原告の仮説に反し、LBTIを添加した場合でもカリクレイン活性は変動し、安定していないことが確認された(酵素活性の測定は氷水浴中で行われることが多いが、氷水自体は0℃であっても、試験管内は甲第三二号証の実験のように0℃の条件下とはならず、二±一℃の条件となる。本件発明の明細書の実施例では一次反応は氷水浴中で行われている。)。

(三) 原告は、LBTIのような阻害剤を使用しなければ、「カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間」が何時から何時までかということを確認することができないと主張するが、失当である。

「直線的な関係が成立する時間」とはカリクレイン生成と反応時間との間に正比例関係が成立するとみなすことができる酵素化学的意味での直線関係が認められる時間を意味するのであって、幾何学的な意味での直線ではない。原告は、乙第二号証の図1において、反応時間五分と一〇分との二つの測定点が示されておりこの二点が線分(直線)で結ばれているが、測定点を増加してより細かい時間間隔で測定しそれらの測定点をプロットしたうえで結べば、直線で結ばれていた部分も決して直線とならない旨主張するが、誤りは明白である。プレカリクレインが活性化することによりカリクレインが生成するが、特異的阻害剤を用いることなく、カリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間は明確に示されているのである。

乙第三〇号証(加藤及び関作成の平成六年一一月四日付「実験報告書〔イ号方法における二次反応の反応時間による直線性〕」)の実験により、LBTIを添加しない条件下(被告主張のイ号方法の特徴である。)で、第二次反応進行時に、生成したカリクレインが反応時間の経過に伴って直線的関係をもって合成基質を水解することが確認された。すなわち、LBTIを用いなくても、被告主張のイ号方法の第二次反応により、安定的にカリクレイン測定ができ、カリクレイン様物質産生阻害活性を測定できることが実証されたのである。

(四) LBTIのような特異的阻害剤を用いなくても被検薬のカリクレイン様物質産生阻害活性を測定することは可能であり、右阻害剤を用いた場合と同等の測定結果が得られることは、乙第八号証(加藤・関作成の平成五年三月二日付「イ号方法による追試実験報告書」)、乙第九号証(玄番作成の平成五年四月二六日付実験報告書)、乙第一五号証(加藤・関作成の平成六年三月二五日付「イ号方法追試実験報告書〔他社製品での検討〕」)、乙第一九号証(玄番作成の平成五年一二月二〇日付実験報告書II)によって実験的に確認されているところである。

(五) 原告は、甲第四二号証、第四三号証を引用して、乙第二号証(「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文)記載の方法によりヘパリンナトリウムのカリクレイン様物質産生阻害活性を測定したとする乙第二〇号証の1及び乙第二八号証は誤りである旨主張する。

(1)  しかし、甲第四三号証(「アンチスロンビンIII 及びヘパリンによる精製血漿カリクレインの阻害」と題する論文」)は、その表題に示されているとおり、精製された試薬を用い、それ以外の酵素等生体由来物質の存在しない条件下のものであり、ヒト血漿自体を使用した実験による乙第二号証の実験条件とは全く相違する。ヒト血漿中には様々な生体由来物質が存在するのであるから、生体内におけるカリクレインの挙動をみるためには、甲第四三号証の右のような条件だけでは不十分である。

(2)  甲第四三号証中原告が訳文を提出しなかった箇所(乙第三二号証)には、「今日では、血漿カリクレイン活性は、内在性凝固系の開始段階の正常な活性化に必須であることが認められており、これらの結果は、試験管内(in vitro)において、おそらく血液凝固第XII 因子の活性化はヘパリンを添加した血漿で阻害され、生体内(in vivo )においてもその可能性がヘパリン投与中にあることを意味している。」(二二五頁)との記載があり、ヘパリンを血漿に添加したとき、血液凝固第XII 因子(ハーゲマン因子)の活性化を阻害することが知られているのである。血液凝固第XII 因子が活性化した活性型血液凝固第XII 因子が、血漿中のプレカリクレインを転化してカリクレインを産生するのであるから、ヘパリンが血漿中で血液凝固第XII 因子の活性化を阻害することは、すなわちカリクレインの産生を阻害することである。このようにヘパリンはカリクレインの産生を阻害するものであり、クエン酸ナトリウムやEDTA-2Naを用いた場合のカリクレインの測定値とのの差は、カリクレイン様物質産生阻害活性とみることができる。

(3)  本件特許方法においても被告主張のイ号方法においても、カリクレイン様物質産生阻害活性の測定は、被検薬の存在下と非存在下でのカリクレイン活性の測定値の差を計算する方法によっている。厳密にいえば、測定値の差が存在しても、その差は、プレカリクレインの活性化を阻害してカリクレインの量が低下したことによるのか、一旦生成したカリクレインを分解等により阻害してカリクレインの量が低下したことによるのかは確定できず、当該測定法自体では判らないということになる。原告の主張は、ヘパリンにはカリクレイン様物質産生阻害活性がないのでこれを測定できないというものであるから、そのように仮定したとしても、乙第二号証の方法によって他の被検薬のカリクレイン様物質産生阻害活性を測定することができる事実は動かない。

3 被告主張のイ号方法中のエタノール抽出処理により、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液のカリクレイン様物質産生阻害活性は失活するか(争点2(三))。

【原告の主張】

被告主張のイ号方法は、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液につきエタノール抽出処理を行うものであるため、右抽出液中のカリクレイン様物質産生阻害活性を示す成分が失活する(甲第一三号証〔原告の生物活性科学研究所第一天然有機部部長家永和治作成の平成五年一二月一七日付陳述書〕、甲第一四号証の1・2〔厚生省薬務局新医薬品課長作成の平成五年一一月一〇日付証明書〕)という欠陥を有しており、被告主張のイ号方法によって被告医薬品(ローズモルゲン注)につきカリクレイン様物質産生阻害活性を確認することができたとする実験結果(乙第八号証)は、右のエタノール抽出処理により注射薬である被告医薬品中の塩化ナトリウムが試料溶液中に溶出し、その結果、試料溶液の最終塩濃度がカリクレイン様物質産生反応のための至適塩濃度の範囲を外れることによる影響ではないかと考えられ、定性的な確認試験の方法としても信頼性を欠くものといわなければならない(甲第九号証の1・2〔岡本作成の平成五年九月二日付実験報告書〕、甲第二三号証〔同人作成の平成六年五月一四日付陳述書〕、甲第三八号証〔同人作成の平成六年一〇月五日付「コメント」と題する書面〕)。

この点は、乙第一三号証、第一五号証の試験においても共通にみられるところである。

【被告の主張】

原告は、被告主張のイ号方法中のエタノール抽出処理によりワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液中のカリクレイン様物質産生阻害活性を示す成分が失活する旨主張するが、塩化ナトリウムはエタノールに極めて溶けにくく、エタノール抽出は脱塩のために行うものであるから、原告の主張は失当である。エタノール抽出は前処理であって、被告主張のイ号方法が本件特許権と抵触するか否かの判断とは無関係な操作であり、必要であれば、エタノール抽出に代わる脱塩方法を実施することも可能なのである。また、原告が自らの確認試験の前処理の内容を秘匿したまま、被告主張のイ号方法を論難するのは公正ではない。原告自身も脱塩のためにエタノール抽出処理をしているかもしれないからである。

原告の主張は、要するに被告主張のイ号方法ではエタノール抽出処理により、塩化ナトリウムの濃度が上昇してカリクレイン活性の測定に影響を及ぼし、カリクレイン様物質産生阻害活性の測定ができなくなるというものであるが、乙第三一号証(加藤・関作成の平成六年一二月五日付実験報告書〔脱塩操作の違いによるカリクレイン様物質産生阻害活性の検討〕)の実験では、被告医薬品をエタノール抽出により脱塩した試料と、マイクロ・アシライザーにより脱塩した試料(原告の主張する塩化ナトリウム濃度の上昇は起きない。)のそれぞれについて、カリクレイン様物質産生阻害活性を測定したところ、エタノール抽出により脱塩した試料とマイクロ・アシライザーにより脱塩した試料とにおいて同等のカリクレイン様物質産生阻害活性の存在が確認された。このように乙第三一号証の実験により、エタノール抽出により脱塩してもカリクレイン様物質産生阻害活性を正確に測定できることが立証され、また、マイクロ・アシライザーにより脱塩した試料について、LBTIを用いることなくカリクレイン様物質産生阻害活性が測定できることも立証されたのである。

三1 原告が原告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(争点3(一))

【原告の主張】

原告は、原告医薬品の製造承認事項一部変更申請に当たり、本件特許方法によるカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法を適用した試験データを添付し、本件特許方法により定量的にカリクレイン様物質産生阻害活性を測定する方法を一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載して申請し、厚生大臣から承認を受けた(甲第一五号証、第一七号証)。したがって、一部変更申請書中に記載の原告医薬品の確認試験の方法は本件特許方法と同じである。

【被告の主張】

原告援用の甲第一五号証、第一七号証は、前処理の方法、各種試薬の具体的データのほとんどが秘匿されているから、客観的な追試が不可能であり、これらによっても一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法が本件特許方法と同じであることが証明されたとはいえない。

2 被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(後発医薬品である被告医薬品の製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」は、先発医薬品である原告医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と内容的に同じでなければ、厚生大臣から製造承認を受けることができないか。この点に関する厚生省の審査実務はどうなっているか。)(争点3(二))

【原告の主張】

(一) 一般論として言えば、「医薬品の確認試験方法については、その目的に照らし、先発医薬品の製造承認書記載の『規格及び試験方法』と同等又はそれ以上の精度のものであることが証明できるものであれば、異なる試験方法を採用しても差し支えない。したがって、後発医薬品が製造承認を受けるためには、その製造承認申請書記載の『規格及び試験方法』が先発医薬品のそれと同一内容である必要はない。」との見解は決して誤りではない。

(二) しかし、前記のとおりワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする医薬品の「規格及び試験方法」としては、原告医薬品の製造承認事項一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載した方法すなわち本件特許方法以外には、その「力価規格」の決定を可能とする試験方法は存在しない。すなわち、先発医薬品である原告医薬品の一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載した方法と「同等又はそれ以上の精度をもつ試験方法」は存在していないから、本件では、右(一)の見解の適用される余地はあり得ず、結局、後発医薬品である被告医薬品は、その製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」が先発医薬品である原告医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と同一でなければ、製造承認を受けることができない、ということになる。

(三) 被告は、カリクレイン様物質産生阻害活性試験は力価を決定するためのものではないと主張するが、原告医薬品(ノイトロピン特号3CC)において、その製剤中の原薬定量法としてはSARTストレスマウスの鎮痛係数より求めたED50値が力価として使用されているものの、原薬そのものの力価を測定するためには、更にカリクレイン様物質産生阻害活性の測定値が使用されているのである(改訂した医薬品インタビューフォームである甲第三一号証参照)。

【被告の主張】

(一) 被告が本訴で開示した被告主張のイ号方法は、被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄の「確認試験」の項に記載されているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験に係る記載内容については何ら言及したものではなく、被告は被告主張のイ号方法と右申請書の記載内容とが実質的に同一であると主張するものではない。

(二) 被告は、被告医薬品の製造承認申請書の右記載内容を開示する意思はない。医薬品の製造業者にとって医薬品の製造承認申請書の内容は重要な営業上の秘密とされている。その中には、特許を受けることができるような発明であっても公開を欲しないために敢えて特許出願をしていない技術事項もあれば、そうでなくとも製造上の様々な秘訣(ノウハウ)も含まれている。また、それ自体は一般に知られた技術であっても、当該技術を採用することにより厚生大臣から医薬品製造承認を受けたということが重要な営業秘密に当たる場合もある。

一般に、医薬品の製造業者は、厚生大臣から医薬品の製造承認を受けるために多大の時間、労力及び費用を投入しており、当初の申請内容のままで製造承認されることはむしろ稀であって、実際には厚生省の係官から様々な指導や注文がなされ、資料を追加提出し、申請書の記載内容の補充・訂正を重ねた上でようやく承認にこぎつけているのである。ところが、民事訴訟記録は第三者も閲覧することが可能であるから、本件訴訟において被告が被告医薬品の製造承認申請書の記載内容を開示し第三者がこれを知った場合、それに基づき時間、労力及び費用を要せずに被告医薬品と類似の医薬品について厚生大臣から製造承認を受けることができるのである。しかも、原告医薬品の製造承認申請書の記載内容については、被告も全く知らされてはいない。

なお、被告主張のイ号方法の内容も、本訴の判断に必要かつ十分な限度でこれを開示したものにすぎず、現実にこれを業として実施する際には更に詳細な条件設定が必要であることはいうまでもない。

(三) 一般に、医薬品の確認試験方法については、その目的に照らし、先発医薬品の製造承認書記載の「確認及び試験方法」と同等又はそれ以上の精度のものであることが証明できるものであれば、異なる試験方法を採用しても差支えないのである。原告も、一般論としてこのことを認めている。

そのうえで、原告は、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びそれを有効成分とする医薬品の「規格及び試験方法」としては、原告医薬品の製造承認事項一部変更申請書中の「規格及び試験方法」の欄に記載した方法すなわち本件特許方法以外には、その「力価規格」の測定を可能とする試験方法は存在しないと主張するが、乙第一七号証(原告作成の医薬品インタビューフォーム)の記載に照らしても誤りであることが明らかである(カリクレイン様物質産生阻害活性試験は原告医薬品〔ノイトロピン特号3CC〕の多項目から成る確認試験の一項目であって、力価を決定するためのものではない。)。

3 被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法と、被告が現実に業として被告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法の内容とは、必ず同じ方法でなければならないか(医薬品の製造業者は、現実に業として医薬品を製造する際、当該医薬品の確認試験の方法を変更することは許されるか。)(争点3(三))

【原告の主張】

厚生大臣による医薬品の製造承認に当たり製造承認事項の一項目として確認試験の方法が特定されている場合、医薬品の製造業者は、医薬品の製造に当たり、当該方法を実施することが義務づけられる。

もっとも、当該方法と同等又は同等以上であることが十分に確認される場合には、当該方法と異なる方法を実施することが許される。しかしながら、原告医薬品について定められているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法と同等又は同等以上と認められる右阻害活性の測定方法がないのであるから、被告は、被告医薬品の製造承認事項として定められているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(これは、原告医薬品の製造承認事項として定められているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法と同一の方法、すなわち本件特許方法に該当するものと推定する外はない。)を実施する外なく、したがって、現実にこれを業として実施しているものとみなければならないのである。

【被告の主張】

乙第一四号証(株式会社薬事日報社昭和六〇年一〇月二八日発行の厚生省薬務局監視指導課監修「GMP事例集」医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準事例集一九八五年版)によれば、製造承認書記載の確認試験方法は、異なる試験方法で代用できることが明記されている。例えば、そのS3-17の問答(四七頁)によれば、「製造承認書記載の確認試験方法と異なる試験方法を、相関性等を十分に確認した上で原料の確認試験方法として用いてもよいか(例えば、赤外吸収スペクトルで官能基の確認試験が代替できる場合や薄層クロマトグラムのRf値で、成分の確認試験に代替する場合等)。」との問に対し、「用いてもよい。ただし、根拠等を製品標準書等に明記しておくこと。」との答がなされている。この外、S3-18、19、29、22(四七頁~四九頁)等の問答からも同様に製造承認書記載の確認試験方法の変更が許されることが明らかである。確認試験は医薬品に含有されている主成分などの特性に基づいて確認するための試験であるから、代替方法を用いることも許されているのである。

したがって、被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法の内容と、被告が現実に業として被告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法の内容とは、必ず同じ方法でなければならない、ということはない。

第四争点に関する判断

一 本件特許方法は、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として現在までに知られている唯一の方法であるか(争点1)。

1 本件発明の出願前に次の(一)ないし(六)の文献が刊行されており、当該文献にはそれぞれ以下のような記載がある。

(一) 昭和五二年一〇月三〇日発行の「薬理と治療」第五巻臨時二号(乙第一号証)所載の態原雄一らの「序論-Kallikrein-Kinin System の最近の知見」と題する論文

「 Kallikrein は糖を含有する蛋白質で、作用上から protease に分類される enzyme である。薬理作用は、Kallikrein 自体には降圧作用はないが、血中の kininogen に作用して活性 peptide(kallidin)を遊離し、末梢血管抵抗を減じて降圧作用を示すことが知られている。Kallikrein はその起源(種・部位)によって性質や基質特異性が異なることが報告されている。またブタ膵臓からは、KallikreinA、B、イヌの尿からは、KallikreinB1~B4などの isoenzyme も報告されている。Kallikrein に関する詳細な研究は、膨大な報告があり、それらを集大成した綜説にゆずる。」(3頁)

「第XII 因子(最上位酵素として作用)は Hageman factor で、血中 Kallikrein の活性化も合わせて司どることが知られている。」(6頁)

(二) 昭和五六年六月二五日発行の臨床化学第一〇巻第二号所載の大出博功らの「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文(乙第二号証)の緒言

「 血中カリクレインは通常不活性な前駆体であるプレカリクレインとして存在し、生体の変化によってハーゲマン因子が活性化を受け、次いでプレカリクレインがカリクレインに活性化される。血中カリクレインはγ-グロブリン画分の高分子キニノーゲンに作用し、ブラジキニンを作成することが知られるが、最近は血液凝固・線溶系への関与や、プロレニンの活性化に関与することが示唆されている。近年 Fletcher factor(プレカリクレイン)の欠損症、キニノーゲン欠損症(Flaujeac trait)が発見され、血中カリクレイン-キニン系の生理学的、病理学的な役割りに関する研究が注目され、血中カリクレイン活性の簡便な測定法の開発が要望される。

従来、血中カリクレインの測定はエステル合成基質(tosylarginine methylester:TAME)を用いる方法、p-nitroanilideにペプタイドを結合させた合成基質(H・D・propyl-phenyl-alanyl-arginine-p-nitroanilide )を用いる方法が利用されているが、特異性において未だ十分であるとは言い難い。

本報では、Moritaらにより報告された血中カリクレインに特異性の高いペプタイド結合蛍光合成基質(Carbobenzoxy-phenylalanyl-arginine-7-methyl coumarin amide:Z-phe-arg-MCA )を用い、簡易な血中カリクレイン、プレカリクレイン測定法の基礎的検討を行い、血中カリクレイン活性測定法を確立したので報告する。」

(三) 昭和五八年六月一五日発行の臨床科学第一九巻第六号所載の大出博功らの「カリクレイン活性」と題する論文(乙第三号証)の「測定法」の項

「 カリクレインの測定法は従来より種々の方法が報告されている(表2)。ここでは酵素化学的定量法で、血中と尿中用のペプチド合成基質(Pro-Phe-Arg-MCA、Z-Phe-Arg-MCA)を用いた測定法を紹介する。(中略)2 血中カリクレイン測定法 血中カリクレインは、通常、大部分が不活性のプレカリクレインとして存在している。そこで活性化されているカリクレイン活性と、活性化操作を行って活性化されてくるプレカリクレインを分離定量する。」

(四) 昭和五五年六月一日発行の「血液と脈管<日本血栓止血学会誌>」第一一巻第二号所載の大石幸子らの「蛍光基質を用いたヒト血漿中プレカリクレインの測定法とその応用」と題する論文(乙第四号証)の「方法」の項

「 プレカリクレインの測定法を図示すると、図1に示すように活性化とアミド分解の二段階より成る。ヒト血漿はプラスチック試験管に1/10容量の三・八%クエン酸ナトリウム液で採血後、二〇〇〇gで一五分間遠心し分離後ただちに使用するか、または-70℃に保存し、使用直前に融解して用いる。

1)プレカリクレインのアセトン・カオリンによる活性化‥五〇μlの血漿を八五〇μlのアセトン、 Buffer I混液(一五〇μlのアセトンと七〇〇μlの Buffer Iの混じたもの)によく混和室温(25°)に一〇分置く。Buffer I;0.02M+tris・HCl-0.15M Nacl,pH8.0.次いでカオリン混濁液(10mg/ml in Buffer I )一〇〇μlを加え一五秒間良く攪拌する。室温で三〇、六〇、一二〇分放置後二〇μlをとって次の操作を行う。

2)amidolysis:試験管Aには四〇μgの大豆トリプシンインヒビターを含む5×10-5MのZ・phe-arg-MCA 液(Buffer II:0.05M tirs・HCl,0.1M Nacl,0.02M Cacl2,pH8.0に溶解 )一mlをあらかじめ加え、試験管Bには四〇μgのリマ豆トリプシンインヒビターを含む基質液一mlを加えておく。先の反応液二〇μlをおのおのに加え、三七℃で一〇分 incubate 後、二mlの一七%酢酸溶液を加え反応を止める。生成されたアミノメチルクマリン(AMC)量を蛍光光度計を用い、380(excitation)、460(emission)nmで測定する。AとBの読みの差をプレカリクレインの値とする。活性は 1unit =10-7M AMC/10min として表す。」(二三五頁~二三六頁)

(五) 昭和四九年九月一五日発行の日本薬学会「ファルマシア」第一〇巻第九号所載の今成登志男の「ヒト血漿プレカリクレイン研究の最近の進歩」と題する論文(乙第六号証)の「活性測定法」の項

「 カリクレインの活性測定法に関しては、既に多くの方法が開発されているので、プレカリクレインの測定は活性化後、これに倣って行なわれている。即ち、プレカリクレインをトリプシンやハーゲマン因子(またはそのフラグメント)で活性化して生じたカリクレインを、1 生物学的に又は、2 合成基質を用いて化学的に測定する。前者には頸動脈血圧下降度測定法、血流増加測定法、摘出平滑筋による方法などがあり、信頼性の高い測定法ではあるが、高度の技術と経験を要するという欠点がある。後者の化学的測定法は、N-α-benzoylarginine ethyl ester(BAEE)やN-α-tosylarginine methyl ester(TAME )等の合成基質を用いてエステラーゼ活性を測定するもので精製された酵素活性の測定には簡便で応用範囲も広い。Colmanらは血漿とカオリンとを接触させるとカリクレイン活性が出現し、その活性が共存するインヒビターによって速やかに失活して行く過程をTAMEを基質としたエステラーゼ活性を指標に追跡しそれを血漿プレカリクレインの活性測定に応用した。」(六六五頁)。

(六) 昭和五〇年八月二〇日発行の日本生化学会編「生化学実験講座5 酵素研究法(上)」(乙第七号証)の「プレカリクレイン活性化酵素(ハーゲマン因子)の測定法」の項

「 血中でプレカリクレインを活性化してカリクレインに変換する酵素は、内因系の血液凝固をひき起こすハーゲマン因子(第XII 因子)と同じであり、したがってキニン遊離活性からも、血液凝固活性からも測定できることになる。ハーゲマン因子は、ガラス、カオリンやエライジン酸などで活性化されるほか、トリプシンやプラスミン、カリクレインによっても活性化される。ヒトのハーゲマン因子の場合、トリプシンなどの作用により、分子量三万の活性のあるフラグメントになり、これはもとの分子量約九万のハーゲマン因子に比べてプレカリクレインを活性化する活性が、血液凝固活性よりも強いとされている。ハーゲマン因子の活性を血液凝固活性で測定するには、ハーゲマン因子を欠く血漿を用いる必要があり、この患者は比較的まれであるので、入手の点で難点がある。プレカリクレインを基質として用いる場合は、活性化されたカリクレインをすでに記した方法で測定することができる。またかなり精製した活性化ハーゲマン因子を用いると、エステラーゼ活性があるので、カリクレイン同様、合成基質を用いて測定することもできる。

プレカリクレインを用いる方法 プレカリクレインはヒトおよびウシの血漿から精製されている。図7・6に、ウシのハーゲマン因子によるウシのプレカリクレインの活性化曲線を示した。ハーゲマン因子の量を変えて、〇・一五単位(TAMEを基質としたときのエステラーゼ単位)のプレカリクレインと、〇・四Mトリス-塩酸緩衝液(10-5M エライジン酸を含む)〇・九ml中で反応させ、三七℃で放置後、リママメトリプシンインヒビター四〇μgを加えて、活性化ハーゲマン因子を失活させる。活性化されたカリクレインの活性はヒドロキシルアミン法で測定する。」(九六頁~九七頁)。

2 右各文献の記載に照らすと、本件発明の出願当時本件発明と全く同じ技術思想に基づいて被検物質のカリクレイン生成阻害能を測定する方法が当業者間に知られていたかどうかは別として、ヒト血漿中のカリクレイン活性の測定法として種々の方法が報告されており、しかも、カリクレイン活性に対し特異性のある発色性又は蛍光性合成基質や、反応を抑止するために酸ヤリマ豆トリプシンインヒビターなどのような阻害剤を使用して、最終的に反応液中に遊離生成するpNA(p―ニトロアニリン)の吸光度を測定すること、あるいは遊離生成するMCA(7―アミノ―4―メチルクマリンアミド)の蛍光を測定することによって、生成したカリクレイン活性を測定する方法も既に知られていたことが認められる。

そして、本件発明の明細書によれば、本件発明における被検物質のカリクレインの生成阻害能の測定は、直接カリクレインの生成阻害能を測定するというものではなく、第一次反応で生成したカリクレインを第二次反応において定量することにより行うものとされるが、その生成カリクレインの定量の方法についてはこれを直接定義するような記載は存在せず、カリクレインの活性(酵素量)の血漿中に存在する高分子キニノーゲン、合成基質等、カリクレインに対する特異的基質を用いて測定する方法が好ましいものとされ(公報7欄30行~8欄33行)、実施例では、発色性合成基質 D-Pro-Phe-Arg-pNA を用いてこれとカリクレインとの反応により最終的に遊離生成するpNA(p―ニトロアニリン)の四〇五nmにおける吸光度を測定する方法、及び蛍光性合成基質 Z-Phe-Arg-MCA を用いてこれとカリクレインとの反応により最終的に遊離生成するMCA(7―アミノ―4―メチルクマリンアミド)の蛍光(Ex-380nm,em460nm)を測定する方法が示されている(なお、pNAの遊離量〔発色量〕から酵素活性を求める方法には、基質分解に伴う吸光度変化を連続的に観察し、一分間の吸光度変化量を求める方法〔初速度法又はレートアッセイ法〕と、吸光度が直線的に増加している範囲内で一定時間反応させた後、五〇%(V/V)酢酸などを用いて酵素反応を停止してから吸光度を測定し、一分間当たりの変化量を求める方法〔エンドポイント法〕とがあるが〔甲第一八号証・昭和五七年七月一日株式会社講談社発行の講談社サイエンティフィク「カリクレイン・テニン」二三七頁、二三八頁〕、前示のとおり本件発明の第一次反応も酵素反応であって、測定点はカリクレイン活性が飽和してしまう前の、カリクレイン生成と反応時間との間に実質的な直線関係が成立する時間内に設定されるから、生成カリクレインの活性をエンドポイント法で測定するものということができる。)。

一方、原告が原告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験法方法」の欄に記載した原告医薬品の品質規格検定のための確認試験の方法は、甲第一五号証(原告の研究開発本部薬事企画部部長山口欣一郎作成の平成六年三月四日付報告書)及び甲第一七号証(原告作成の昭和六二年一一月二〇日付医薬品製造承認事項一部変更承認申請書による申請のとおり承認する旨の厚生大臣作成の平成四年五月一一日付医薬品製造承認事項一部変更承認書)によれば、「本品一〇〇mlを正確に量り取り、水二〇mlを正確に加えた後、この液一〇〇mlを正確……、水を加えて正確に二〇mlとし、試料溶液とする。試料溶液〇・二ml〇・五M塩化ナトリウム溶液〇・二mlをガラス製以外の試験管にとり、氷水中で冷却した後、これにあらかじめ氷水中で冷却した乾燥人血漿希釈液〇・一mlを正確に加えて振り混ぜ、直ちにあらかじめ氷水中で冷却したカオリン懸濁液〇・五mlを正確に加えて振り混ぜ、氷水中で正確に二〇分間放置する。この液〇・四mlを、あらかじめリマ豆トリプシンインヒビター溶液〇・二mlを正確に量り氷水中で冷却した試験管に正確に加えて振り混ぜ、氷水中に保存する、この液〇・一mlを、あらかじめ発色性合成基質溶液〇・三mlを正確に量り、三〇±〇・五度の水浴中で加湿した遠沈管に正確に加えて振り混ぜ、三〇±〇・五度の水浴中に正確に二〇分間放置した後、クエン酸溶液(一→一〇〇)〇・八mlを正確に加えて振り混ぜる。氷冷した後、遠心分離し、上澄液を試料溶液とする。別に試料溶液の代わりに水を用いて、試料溶液と同様に操作して、対照比色液とする。得られた試料比色液及び対照比色液につき、水を対照として波長四〇五nmにおける吸光度を測定するとき、試料比色液と対照比色液の吸光度差は、p―ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度よりも大きい。ただし、試料比色液及び対照比色液はそれぞれ二検体ずつ調製し、その平均値をそれぞれの吸光度とする(カリクレイン様物質産生活性)。」というもの、すなわち、被検物質を加えた条件下で得られた試料比色液と被検物質を加えない条件下で得られた対照比色液の吸光度差をp―ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度と対比することにより被検物質のカリクレイン生成阻害能を測定するものであることが認められるが、本件発明の明細書には、そのように試料比色液と対照比色液の吸光度差をp―ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度と対比することにより被検物質のカリクレイン阻害能を測定するという技術思想は全く開示されておらず、実施の一例として、第二次反応で遊離生成するp―ニトロアニリンの四〇五nmにおける吸光度を測定するまでが示されているにすぎない。また、本件明細書の第1図(本件発明の測定法によって種々の鎮痛剤のカリクレイン生成阻害活性を測定した結果を示したグラフ)には、カリクレイン生成阻害率(%)と被検薬濃度(mM)との関係が示されているが、右のカリクレイン生成阻害率(%)の算出方法に関する技術的事項は全く開示されていない。

したがって、本件発明の生成カリクレインの定量方法自体は、結局、第二次反応において最終的に遊離生成するp―ニトロアニリンの波長四〇五nmにおける吸光度を光学的に測定することに外ならないのであって、従来のカリクレイン活性測定技術と異ならないといわざるを得ず、前記原告医薬品の品質規格検定のための確認試験の方法においては、更にそのようにして定量した試料比色液と被検物質を加えない条件下で得られた対照比色液の吸光度差をp―ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度と対比することにより被検物質のカリクレイン産生阻害能を測定する方法が行われるものの、これは、本件発明によって定量した生成カリクレインの吸光度測定値をどのように評価するかという評価方法の問題であって、本件発明自体には含まれないものといわなければならず、従来のカリクレイン活性測定法であっても、精度の点はさておき、カリクレイン産生阻害能を測定(定量)すること自体は可能であったと認められる(精度の点については、後記二2説示のとおり)。

3 この点について、甲第三七号証(九州大学名誉教授大村裕作成の平成六年九月三〇日付陳述書)中には本件特許方法は従来の公知の単なるカリクレイン測定法ではない旨の記載があるが、それは血漿カリクレイン様物質産生阻害能という概念を定立した点の新規性について言及しているにすぎないものと認められるから、前記2の認定判断を動かすものではない。

また、原告は、被告が被告医薬品につき厚生大臣から製造承認を受けだカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法がいかなるものであるかについては主張せず、医薬品製造承認申請書の提出も拒んでいることについて種々論難するが、医薬品の製造業者にとって営業秘密に属するとみられる医薬品製造承認申請書の記載内容についてまで主張又は証拠提出をすべき義務を課せられる法律上の根拠は見い出し難い(原告も、本訴において原告医薬品につき製造承認を受けたカリクレイン様物質産生阻害活性の測定方法がいかなるものであるかについてその内容を全面的に開示しているわけではないし、その医薬品製造承認申請書の全体を証拠として提出しているものでもない。)。被告が現に業として実施している被告医薬品の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法については、原告に主張立証責任があるのであるから、原告の右論難は当を得たものとはいえない。

4 したがって、本件特許方法はワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として現在までに知られている唯一の方法であるとする原告の主張は、採用することができない。

二 被告主張のイ号方法は、本件特許方法と同等又はそれ以上の方法としてそれに代替し得る方法とはなり得ないか(争点2)。

1 被告主張のイ号方法は定性的試験方法か、定量的試験方法か(争点2(一))。

(一) 被告主張のイ号方法は、別紙目録(四)及び乙第八号証(被告の加藤・関作成の平成五年三月二日付「イ号方法による追試実験報告書」)によれば、「A 試料溶液に生理食塩液で希釈したヒト正常血漿溶液を加えた後、緩衝液(〇・〇五Mトリス塩酸緩衝液)で調製したカオリン懸濁液を加えて混和し、氷水中に二〇分間放置する(以上、第一次反応)。直ちに、この反応液を、水浴中で三〇℃に保温した緩衝液(〇・一Mトリス塩酸緩衝液)と合成基質溶液(H-D-Pro-L-Phe-L-Arg-pNA・2HCl )との混液に加えて、二〇分間反応させた後、一%クエン酸溶液を加えて反応を停止させて遠心分離を行い、その上澄液の波長四〇五nmにおける吸光度を測定して試料吸光度(AT)を求める。B 一方、試料溶液の代わりに〇・二五M塩化ナトリウム溶液を、カオリン懸濁液の代わりに緩衝液(〇・〇五Mトリス塩酸緩衝液)を用いて、前記の場合と同様に操作して、吸光度を測定して試料ブランク吸光度(ATB)を求める(以上、第二次反応)。C 別にカリジノゲナーゼ(別名、カリクレイン)標準品に緩衝液(〇・〇五Mトリス塩酸緩衝液)を加えて溶かし標準溶液とする。この標準溶液を、水浴中で三〇℃に保温した緩衝液(〇・一Mトリス塩酸緩衝液)と合成基質溶液(H-D-Pro-L-Phe-L-Arg-pNA・2HCl )との混液に加えて、以下前記の第二次反応と同様に操作して、吸光度を測定して標準吸光度(AS)を求める。D 一方、標準溶液の代わりに緩衝液(〇・〇五Mトリス塩酸緩衝液)を用いて、標準溶液の場合と同様に操作して、吸光度を測定して標準ブランク吸光度(ASB)を求める。D 前記各々の吸光度につき、試料吸光度(AT)から試料ブランク吸光度(ATB)を引いた値と、標準吸光度(AS)から標準ブランク吸光度(ASB)を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値より小さいときは、本品は規格に合格とする。」というもの、すなわち、試料吸光度(AT)から試料ブランク吸光度(ATB)を引いた値(AT―ATB)と、標準吸光度(AS)から標準ブランク吸光度(ASB)を引いた値(AS―ASB)を算出して両者の大小を比較することにより品質規格適合の有無を判定するものであることが認められる。

(二) しかして、本件発明の構成要件(3) にいう「定量」の意義については、前示のとおり本件発明の明細書にはこれを直接定義するような記載は存在せず、カリクレインの活性(酵素量)を高分子キニノーゲン、合成基質等、カリクレインに対する特異的基質を用いて測定する方法が好ましいものとされ、実施例では、発色性合成基質 D-Pro-Phe-Arg-pNA を用いてこれとカリクレインとの反応により最終的に遊離生成するpNA(p―ニトロアニリン)の四〇五nmにおける吸光度を測定する方法、及び蛍光性合成基質 Z-Phe-Arg-MCA を用いてこれとカリクレインとの反応により最終的に遊離生成するMCA(7―アミノ―4―メチルクマリンアミド)の蛍光(Ex-380nm,em460nm)を測定する方法が示されているにとどまるのであり、したがって、本件発明の構成要件(3) にいう「定量」とは、結局、第二次反応において最終的に生成するpNAの吸光度又はMCAの蛍光を測定することを意味し、前記原告医薬品の品質規格検定のための確認試験の方法における、試料比色液と対照比色液の吸光度差をp―ニトロアニリン標準溶液の波長四〇五nmにおける吸光度と対比するという評価の方法は含まないというべきである。

してみれば、被告主張のイ号方法の構成のうち本件発明に対応する部分である構成Aも、試料溶液の波長四〇五nmにおける吸光度を測定するものであるから、被告主張のイ号方法も、本件発明のいう意味では定量法であるということになる(但し、被告主張のイ号方法は、本件発明の構成要件(2) を欠くから、この点で本件発明の技術的範囲に属しないことはいうまでもない。)。

(三) もっとも、このようにして測定した試料溶液の吸光度測定値の評価方法において、被告主張のイ号方法と前記原告医薬品の品質規格検定のための確認試験の方法とは異なるが、最終的に遊離生成するp―ニトロアニリンの吸光度を一定値と対比することによりカリクレイン様物質産生阻害活性を判定している点は共通するから、右原告医薬品の品質規格検定のための確認試験の方法を定量的試験方法と言うのであれば、被告主張のイ号方法もまた定量的試験方法と言って差し支えないものというべきである。

いずれにしても、被告主張のイ号方法をもって定性的試験方法と言うか定量的試験方法と言うかは、用語の問題に過ぎず、要は被告主張のイ号方法が本件特許方法と同等又はそれ以上の方法としてそれに代替し得る方法となり得ないかどうかであるから、次の2以下で検討する問題に帰着することになる。

2 LBTIのような生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤を用いない被告主張のイ号方法は、生成カリクレインを定量するための測定法とはなり得ないか(争点2(二))。

(一) 被告主張のイ号方法では、カリクレインの生成を停止させるために、LBTIのような生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加える、という本件発明の構成要件(2) を欠いていることは明らかである。

原告は、この点について、LBTIのような阻害剤を使用しなければ、<1> 一定反応時間後においてもカリクレイン生成反応が停止せず連続して進行することとなり、測定点におけるカリクレインの生成量を特定することができず、<2> まして、定量的測定法に必須の前提条件たる「カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間」が何時から何時までかということを確認することができず(乙第二号証の図1において、反応時間五分と一〇分との二つの測定点が示されておりこの二点が線分〔直線〕で結ばれているが、測定点を増加してより細かい時間間隔で測定しそれらの測定点をプロットしたうえで結べば、直線で結ばれていた部分も決して直線とならないのである。)、<3> 生成カリクレインの定量に用いられる合成発色基質は活性型血液凝固第XII 因子(FXIIa)によっても分解され、カリクレインと同様に発色するので、反応系中で生起するこのような副次的な反応をトリプシンインヒビターのような阻害剤によって抑制しない限り、右のような直線的な関係が成立する正確な定量的カリクレインの産生検量線を求めることは不可能である旨主張する。

(二) まず、<1>及び<3>の主張について検討するに、第二次反応については、被告主張のイ号方法においても原告医薬品の品質規格検定のための確認試験の方法においても、酸(クエン酸)を阻害剤として添加することにより測定時点以降の反応の進行を停止させてカリクレイン活性を測定していることからみても、第一次反応においても、測定時点以降の反応の進行を停止させた方が測定時点での反応生成物の量をより正確に測定できることは明らかである。したがって、第一次反応における測定時点で活性型血液凝固第XII 因子FXIIaの作用を停止させないと、第一次反応の測定時点以降第二次反応の測定時点までの間に余分なカリクレインが生成されることになるので、カリクレイン活性の測定値は実際の値よりも大となるし、またFXIIaの発色性合成基質に対する影響によってもカリクレイン活性の測定値は実際の値よりも大となると解されるから、LBTIのような阻害剤を用いた場合に最終的に遊離生成するp―ニトロアニリン(pNA)の吸光度の測定値よりも、これを用いない場合に最終的に遊離生成するp―ニトロアニリン(pNA)の吸光度の測定値の方が大きくなることは明らかであって、LBTIのような阻害剤を用いない場合には、これを用いた場合よりも第一次反応の測定時点におけるカリクレイン生成量の測定の正確度において劣るものと解される。

乙第八号証、第九号証によっても右判断は左右されない。

(三) 次に、<2>の主張について検討するに、前記乙第二号証(昭和五六年六月二五日発行の臨床化学第一〇巻第二号所載の大出博功らの「血中カリクレインの簡易測定法」と題する論文)及び乙第三号証(昭和五八年六月一五日発行の臨床科学第一九巻第六号所載の大出博功らの「カリクレイン活性」と題する論文)に記載された従来の測定方法は、被検物質の活性を測定するのではなく単に血漿中のカリクレイン量を測定する方法であるが、第一反応における測定時点でLBTIを用いずに第二次反応を行って活性測定をしていること、乙第二号証に、「カオリン懸濁稀釈活性化法では六・二五mg/mlで二〇分後に最高活性を示し」(一四二頁右欄)との記載があり、乙第二号証の図1からカリクレイン活性の飽和時間を読み取ることができることが認められる。また、乙第四号証(昭和五五年六月一日発行の「血液と脈管<日本血栓止血学会誌>」第一一巻第二号所載の大石幸子らの「蛍光基質を用いたヒト血漿中プレカリクレインの測定法とその応用」と題する論文)及び乙第七号証(昭和五〇年八月二〇日発行の日本生化学会編「生化学実験講座5 酵素研究法(上)」)によれば、従来の測定技術でも第一次反応の測定時点でLBTIを用いて第一次反応を停止させる場合があると認められるけれども、乙第四号証に、(基質 Z-phe-arg-MCA は)「このように血漿カリクレインに対し特異性が高い基質であるが、amidolysis の時に大豆トリプシンインヒビターとリマ豆トリプシンインヒビターを加え、血漿カリクレインに対する特異性をさらに高めた(血漿カリクレインは大豆トリプシンインヒビターにより抑制されるがリマ豆トリプシンインヒビターでは抑制されない)。」(二三六頁右欄)と記載されているように、LBTIをカリクレインの発色基質特異性を増すため(つまり正確なカリクレイン生成量を測定するため)に用いる旨記載されていることからみて、LBTIを用いないでカリクレインの生成量を定量することは(LBTIを用いた場合より正確度において劣るものの)可能と考えられるから、第一次反応における測定時点の設定も可能というべきである。

原告は、前記乙第二号証の図1において、反応時間五分と一〇分との二つの測定点が示されておりこの二点が線分(直線)で結ばれているが、測定点を増加してより細かい時間間隔で測定しそれらの測定点をプロットしたうえで結べば、直線で結ばれていた部分も決して直線とならない旨主張するが、右原告張事実を認めるに足りる証拠はない。

(四) 以上のように、被告主張のイ号方法では、先発医薬品である原告医薬品の品質規格指定のための確認試験の方法のようにLBTIのような阻害剤を用いた場合よりも、第一次反応の測定時点におけるカリクレイン生成量の測定の正確度において劣るものと解されるが、LBTIのような阻害剤を用いた場合に比べ、最終的に遊離生成するp―ニトロアニリン(pNA)の吸光度が大となる、すなわちカリクレイン活性が大となり、被検物質の活性が劣る数値を示すことになるのであるから、被告主張のイ号方法でも、比較対象となる標準吸光度(AS)の値の設定いかんによっては、被検物質につき原告医薬品と同等又はそれ以上のカリクレイン様物質産生阻害活性を有するものと判断し得る可能性はあると考えられる。

したがって、LBTIのような阻害剤を用いなくとも実用に耐え得る生成カリクレイン定量の方法が存在する可能性があるから、原告主張のようにLBTIのような阻害剤を用いない被告主張のイ号方法は生成カリクレインを定量するための測定法とはなり得ないとまで断定することはできない。

3 被告主張のイ号方法中のエタノール抽出処理により、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液のカリクレイン様物質産生阻害活性は失活するか(争点2(三))。

(一) 甲第九号証の1(岡本作成の平成五年九月二日付実験報告書)の「IV 考察・判定」の項には、「今回の実験結果から、試験方法Aにより処理・測定した場合、ノイロトロピン群とコントロール群の吸光度差の大部分が、実際上の対照群とも言える生理食塩液群でも認められた。従って、ノイロトロピンを試験方法Aにより処理・測定した場合は、ノイロトロピン由来の血漿カリクレイン様物質産生抑制作用がほとんど認められず、本抑制作用を評価するための試験法としては、試験方法Aは適当ではないと判断できる。」との記載がある。また、甲第一三号証(原告の生物活性科学研究所第一天然有機部部長家永和治作成の平成五年一二月一七日付陳述書)は、ノイトロピン錠の医薬品製造承認申請に際し原告が昭和六一年九月八日厚生省に提出した「ノイロトロピン錠指示事項回答概要(2) 」(甲第一四号証の2)に掲載したNSP(ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液)のエタノール分画実験の結果について説明したものであるが、その中には、「測定の結果、NSP中のKPI活性はエタノール易溶性のT-3画分に移行せず、エタノール難溶性画分であるT-2画分に移行し、その間にその活性(量)はNS画分に比べ顕著に低減していました(同二三頁)。また、『図3再混合による活性回収率の変動』(同二三頁)に示す通りT-1、T-2及びT-3画分を再混合しても元のNS画分のKPI活性に回復しなかった(同二三頁)ことから、NSPのKPI活性はエタノール抽出により失活すると結論づけました。『NSPのKPI活性はエタノール分画によって失活する』という私共の実験結果は、カリクレインーキニン系領域の研究で著名な神戸学院大学薬学部岡本博教授の『実験報告書』(甲第九号証)の実験結果によっても裏付けられています。」との記載がある。

(二) 原告は、これらの記載を根拠に、被告主張のイ号方法はワクシニアイウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液につきエタノール抽出処理を行うものであるため、右抽出液中のカリクレイン様物質産生阻害活性を示す成分が失活するという欠陥を有しており、被告主張のイ号方法によって被告医薬品(ローズモルゲン注)につきカリクレイン様物質産生阻害活性を確認することができたとする実験結果(乙第八号証)は、右のエタノール抽出処理により注射薬である被告医薬品中の塩化ナトリウムが試料溶液中に溶出し、その結果、試料溶液の最終塩濃度がカリクレイン様物質産生反応のための至適塩濃度の範囲を外れることによる影響ではないかと考えられる旨主張する。

しかし、乙第三一号証(被告の加藤・関作成の平成六年一二月五日付実験報告書〔脱塩操作の違いによるカリクレイン様物質産生阻害活性の検討〕)によれば、エタノール抽出により脱塩した試料溶液とマイクロ・アシライザーにより脱塩した試料溶液とにおいて同等のカリクレイン様物質産生阻害活性の存在が確認されたことが認められ、また、右甲第一三号証の図A(エタノール分画法)の操作と図B(エタノール抽出操作〔イ号方法〕)の操作とは、エタノール処理に至る過程が異なり、厳密にはエタノール処理自体も異なるものであるから、右主張は採用することができない。

三 原告が原告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(争点3(一))、被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(後発医薬品である被告医薬品の製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」は、先発医薬品である原告医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と内容的に同じでなければ、厚生大臣から製造承認を受けることができないか。この点に関する厚生省の審査実務はどうなっているか。)(同(二))、右(二)の方法と、被告が現実に業として被告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法とは、必ず同じ方法でなければならないか(医薬品の製造業者は、現実に業として医薬品を製造する際、当該医薬品の確認試験の方法を変更することは許されるか。)(同(三))。

1 以下の事実は本件訴訟手続上明らかである。

(一) 原告は、平成五年三月六日付調査嘱託の申出書により、原告は、被告医薬品の薬事法に基づく医薬品製造承認書中の「規格及び試験方法」の欄に原告主張のイ号方法が記載されていることを確認するために、平成四年六月一〇日弁護士法二三条の二に基づき東京弁護士会を通じて厚生省薬務局審査課長に照会したが、それに対する回答は、「医薬品製造(輸入)承認申請は、申請者が薬事法に基づく承認を受けるためのものであり、薬事法により義務付けられている表示事項以外の内容については回答することはできない。本事項については、当該製造業者に直接照会されたい。」というものであり、一方、被告は本件訴訟において被告医薬品の製造承認において承認を受けた試験方法は被告主張のイ号方法であると主張しているので、右承認を受けた方法は被告主張のイ号方法であるか原告主張のイ号方法であるかにつき、厚生省薬務局に調査の嘱託をするよう申出をした。

(二) 当裁判所は、平成五年三月一七日、右調査嘱託の申出を採用し、厚生省薬務局に対し民訴法二六二条に基づき次の事項につき調査の嘱託をしたが、厚生省薬務局審査課長は、同年四月二二日付で、右嘱託については、「申請者が承認審査のために提出したものであり、その内容に関する資料は、国家公務員法(昭和二二年法律第一二〇号)一〇〇条一項の「職務上知ることのできた秘密」に該当すると考えられるので、回答できない。」旨回答した。

(調査嘱託事項)

被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスが、薬事法第一四条第一項に基づいて取得した「ローズモルゲン注」並びにその有効成分たる「FN原液『フジモト』」の医薬品製造承認書中、「規格及び試験方法」の項に記載されている測定方法は、

(1)  別紙(四)記載の方法(被告主張のイ号方法)ですか、別紙(三)記載の方法(原告主張のイ号方法)ですか。

(2)  右いずれでもないときは、どのような方法ですか。

(三) 原告は、平成五年六月一一日付文書提出命令申立書及び同年九月一四日付訂正補充書により、次の各文書(記載部分)は被告が本件訴訟において民訴法三一二条一号所定の引用をした文書に該当するとして文書提出命令の申立をしたが、当裁判所は、平成六年一月一八日、右各文書(記載部分)は同条同号所定の文書に該当するとは認められないとして原告の右申立を却下した。

販売名「ローズモルゲン注」に係る厚生大臣の平成四年二月二一日付「医薬品製造承認書」中、添付の「医薬品製造承認申請書」の「規格及び試験方法」欄表示の「別紙(1) 」中、「確認試験」の項に記載されているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験に係る記載部分

販売名「FN原液『フジモト』」に係る厚生大臣の平成四年二月二一日付「医薬品製造承認書」中、右同様の記載部分

(四) 当裁判所は、平成六年一月一二日、被告に対し、以下の三点について釈明を求めた。

「(1)  被告主張のイ号方法は、原告指摘の被告医薬品に係る医薬品製造承認申請書の規格及び試験方法欄表示の別紙(1) 中「確認試験」の項に記載されているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験に係る記載のものと実質的に同一であるという主張か。

(2)  前項が否定の場合、被告は、右医薬品製造承認申請書記載の方法を開示する意思はあるか。

(3)  前二項とも否定の場合、被告が被告主張のイ号方法を開示したことの意義は何か(本件訴訟においていかなる意味があるのか。何ら意味がないことではないか。)。

これに対し、被告は、平成六年一月一八日付第六準備書面で、以下のとおり釈明した。

「(1)  実質的に同一であると主張するものではない(詳細は第三の三2【被告の主張】(一)記載のとおり)。

(2)  被告は、現時点においては、右医薬品製造承認申請書記載の方法を開示する意思はない(詳細は同(二)記載のとおり)。

(3)  被告によるイ号方法の開示は、被告が本件特許方法を実施しているとの原告主張に対する積極否認の意義を有するとともに、本件特許方法がカリクレイン様物質産生阻害活性能の唯一の測定法であるとの原告主張についての積極否認の意義をも有する。」

(五) 当裁判所は、平成六年一月一八日、当事者双方に対し、次の見解の可否について意見を求めた。

「【見解】

ローズモルゲン注(被告医薬品)がノイロトロピン特号3cc(原告医薬品)と同等性のある医薬品であることを、次記の方法により一応証明することができる。但し、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液は両者とも同一の方法で作成した同一濃度のものとする。

本件特許公報二三六頁以下に記載の実施例1又は実施例2に記載の方法を基本的に適用するが(各場合とも被検薬以外は同一条件に設定)、但し、<1>同方法にある、LBTI溶液(生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII 因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤)関係の物質は添加しないこととし、<2>被検薬水溶液として、原告医薬品を〇.一ml、〇.二ml、〇.三ml、〇.四ml、〇.五ml…、被告医薬品を〇.一ml、〇.二ml、〇.三ml、〇.四ml、〇.五ml…とする場合に分け、各反応時間を一五分、二〇分、三〇分…とする場合に分け反応させて、各場合のカリクレイン生成量を、各対応の数値毎に対比し、そのいずれの場合も被告医薬品が原告医薬品と同等と評価できることが判明する場合。」

これに対し、原告は、平成六年三月一五日付回答書で、被告主張のイ号方法も、求釈明の「記」に記載されている方法も、先発医薬品たるノイロトロピン特号3ccにつき承認されたカリクレイン様物質産生阻害活性測定法とは全く異質の方法であって、得られた結果が同じであるからといって、これをもって異質の測定法に基づく測定結果を比較することは意味がなく、まして医薬品の同等性を云々することはできない旨釈明した。

一方、被告は、平成六年三月一四日付第七準備書面で、右【見解】は正当であるが、右【見解】が妥当するのは、カリクレイン様物質産生阻害活性以外の規格及び試験方法を総合して、同等と評価されていることが前提である旨釈明した。

(六) 当裁判所は、平成六年二月二五日、当事者双方に対し、次の二点について釈明を求めた。

「(1)  ノイロトロピン特号3cc(原告医薬品)の製造承認申請に際し、本件「カリクレイン様物質産生阻害活性測定法」を適用してカリクレイン様物質産生阻害活性が測定確認されたこと及びその具体的測定値を示して承認を受けたことを明らかにする証拠が、当審に提出されているかどうか。提出されている場合はその証拠番号。

(2)  前回平成六年一月一八日付求釈明書の【見解】中の但書「但し、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液は両者とも同一の方法で作成した同一濃度のものとする。」を削除した場合に、同書面「記」についての意見」

これに対し、原告は、平成六年三月一五日付第二回の回答書で、(1) の点については、甲第三号証により明確になっているが、今回新たに甲第一五号証を提出する(第三の三1【原告の主張】参照)、(2) の点については、平成六年一月一八日付求釈明書の「記」に記載されている試験方法は被告医薬品の「規格及び試験方法」として成立の余地のない方法である旨釈明した。

一方、被告は、平成六年三月一四日付第七準備書面で、(1) の点については、原告は、そのような証拠は提出していない、(2) の点については、平成六年一月一八日付求釈明書に示された【見解】は、但書を削除した場合でも、正当である旨釈明した。

(七) 当裁判所は、平成六年三月一八日、原告の平成六年三月一五日付第二回の回答書中の

「(1)  『後発医薬品たる被告の『ローズモルゲン注』は、その先発医薬品たる『ノイロトロピン特号3cc』の『規格及び試験方法』に合致したが故に後発品として承認されたものである。…『ローズモルゲン注』が『ノイロトロピン特号3cc』と同一の医薬品であるか否かを確認する唯一の試験方法は、『ノイロトロピン特号3cc』の製造承認申請書の『規格及び試験方法』の欄に記載されている試験法(それはとりもなおさず本件特許方法である)でなければならない。」との記載について、

原告に対し、

「右記載は、被告の『ローズモルゲン注』の製造承認申請書の『規格及び試験方法』が、その先発医薬品たる『ノイロトロピン特号3cc』の製造承認申請書の『規格及び試験方法』の欄に記載されているものと全く同一の規格及び試験方法でなければ、製造承認されないとの趣旨か。それとも、それが最も製造承認を得られ易い方法であるから、被告もそのようにしたに違いないとの趣旨か。前者の場合は、何故製造承認され得ないかその理由を明らかにされたい。」と、

被告に対し、

「被告は、原告主張の右記載を事実と認めるか。認めない場合は、その理由。」と各釈明し、

「(2)  『LBTIの如きトリプシンインヒビターが用いられなければ、『カリクレイン生成と反応時間の間に直線的な関係が成立する時間』(特許請求の範囲の記載参照)が何時から何時までかということを確認することができないので、生成カリクレインを定量するための測定法にはならない。他方、生成カリクレインを定量するために用いられる D-Pro-Phe-pNA の如き発色基質は活性型第XII 因子によっても分解され、カリクレイン同様発色する。反応系中で生起するこのような副次的反応を、トリプシンインヒビターの如き阻害剤によって抑制しない限り前記の如き『直線的な関係が成立する』精確な定量的カリクレインの産生検量線を求めることは不可能である。」との記載について、

原告に対し、

「生成カリクレインを定量するために用いられる D-Pro-Phe-pNA の如き発色基質は活性型血液凝固第XII 因子によっても分解され、カリクレイン同様発色する、ということは、トリプシンインヒビターの如き阻害剤によって抑制しない場合には、一定量の活性型血液凝固第XII 因子を一定量のヒト血漿に加えたとき、反応開始時でカリクレインが全く生成していないものも、カリクレインが十分に生成したものも、生成カリクレインを定量するための D-Pro-Phe-pNA の如き発色基質による測定では同一の測定結果となり、測定結果に差異は出ないということか。」と、

被告に対し、

「被告は、原告主張の右記載を事実と認めるか。認めない場合は、その理由。」と各釈明した。

これに対し、原告は、平成六年四月二一日付第三回回答書で、(1) の点については、被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」が、先発医薬品たる原告医薬品の製造承認書中の「規格及び試験方法」の記載と同一でなければ、被告医薬品は製造承認を受けることができない、との趣旨である、(2) の点については、第三の二2【原告の主張】(二)の末段記載と同旨の釈明をした。

一方、被告は、平成六年四月二〇日付第八準備書面で、(1) の点については、原告主張事実は否認する(詳細は第三の三3【被告の主張】のとおり)、(2) の点については、原告主張は誤りである(詳細は第三の二2【被告の主張】(三)及び(二)第三段参照)旨釈明した。

(八) 当裁判所は、平成六年四月二五日、当事者双方に対し、「当裁判所は、職権で、本件につき、厚生省薬務局に対し、次の事項につき調査嘱託をする予定である。」として、右調査嘱託をすることについて意見を求めた。

(調査嘱託事項)

「当該医薬品がワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液のような有効成分が明確でない医薬品の場合、後発医薬品が、先発医薬品と同等のものと認められ、製造承認を受けるための実務上の取扱いに関して、次の見解が対立している。いずれの見解が正しいか。なお、両説とも正しくないときは、貴局の取扱いを御教示下さい。

(甲説) 後発医薬品の製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」が、先発医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と同一でなければ、後発医薬品は製造承認を受けることができない。なお、ここにいう、「同一の規格及び試験方法」とは、右製造承認申請書又は製造承認書記載の「規格及び試験方法」が同文であることまでは必要としないが、「規格」としても、「試験方法」としても内容が同じでなければならないという意味である。

(乙説) 一般に、医薬品の確認試験方法については、その目的に照らし、先発医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と同等又はそれ以上の精度のものであることが証明できるものであれば、異なる試験方法を採用しても差し支えない。したがって、後発医薬品が製造承認を受けるためには、その製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」が先発医薬品のそれと同一内容である必要はない。」

これに対し、原告は、平成六年五月九日付求意見に対する意見書により、一般論として言えば、乙説は決して誤りではないが、本件では乙説の適用される余地はあり得ず、甲説が正当である旨述べた(詳細は第三の三2【原告の主張】(一)及び(二)記載のとおり)うえ、それ故嘱託書記載の調査嘱託事項は次の(1) 及び(2) 記載の事項に改められるべきである、とした。

「(1)  被告主張のイ号方法は、原告医薬品の製造承認申請書中の「規格及び試験方法」に記載されている検定方法と「同等又はそれ以上の精度のもの」に該当するか否か。

(2)  後発に係るワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液又はそれを有効成分とする後発医薬品の製造承認申請に当たってカリクレイン様物質の産生阻害活性を検定する方法として申請書の「規格及び試験方法」に記載されている方法としては、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を有効成分とする先発医薬品たる「ノイロトロピン特号3cc」あるいは「ノイロトロピン錠」の製造承認申請に当たって申請書の「規格及び試験方法」に記載されている方法と異なる検定法を記載することで承認が得られるか。」

一方、被告は、平成六年五月九日付意見書により、原告は前記平成六年五月九日付意見書により乙説の正当性を承認し、この点について当事者間に争いがなくなったので、右調査嘱託についてはその必要性がない旨の意見を述べた。

(九) 当裁判所は、職権により、平成六年五月九日付で厚生省薬務局に対し前項記載の事項について民訴法二六二条に基づき調査の嘱託をし、同年七月一五日付書面により回答予定日の照会もしたが、厚生省からは現在に至るまで回答がない。

2 株式会社薬事日報社昭和六〇年一〇月二八日発行の厚生省薬務局監視指導課監修「GMP事例集」医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準事例集一九八五年版(乙第一四号証)は、医薬品の製造管理及び品質管理規則等の各条文等に関する具体的な運用事例について、問答形式で解説を加えたものであるが、そのS3-17の問答(四七頁)には、「製造承認書記載の確認試験方法と異なる試験方法を、相関性等を十分に確認した上で原料の確認試験方法として用いてもよいか(例えば、赤外吸収スペクトルで官能基の確認試験が代替できる場合や薄層クロマトグラムのRf値で、成分の確認試験に代替する場合等)。」との問に対し、「用いてもよい。ただし、根拠等を製品標準書等に明記しておくこと。」との答が記載されており、製造承認書記載の確認試験方法は異なる試験方法で代用できることが明記されている。

また、平成五年三月改訂・作成の原告医薬品(ノイロトロピン特号3CC)の医薬品インタビューフォーム(乙第一七号証)の「原薬の確認試験法」の欄(3頁)には、「*日局・1 アミノ酸クロマトグラフ法による〔アミノ酸〕 *日局・12 吸光度測定法〔紫外部吸収物質、λmax268~272nm 〕 *モリブデン酸アンモニウム/1-アミノ-2-ナフト-ル-4-スルホン酸〔リン〕 *HPLC法(オクタデシルシリル―シリカゲル/0.01Mリン酸二水素カリウム・pH5.5)〔核酸塩基〕 *カリクレイン様物質産生阻害活性試験」との記載があり、「原薬の純度試験法」の欄(4頁)には、「*日局・23 重金属試験法・第2法 *日局・40 ヒ素試験法・第3法・装置Aを用いる方法 *塩化第二鉄試験〔フェノール〕*トリクロル酢酸溶液(1→5)〔たん白質〕」との記載があり、「製剤中の原薬確認試験」の欄(6頁)には、「*日局・1 アミノ酸クロマトグラフ法による〔アミノ酸〕 *日局・12 吸光度測定法〔紫外部吸収物質、λmax268~272nm〕 *モリブデン酸アンモニウム/1-アミノ-2-ナフト-ル-4-スルホン酸〔リン〕 *HPLC法(オクタデシルシリル―シリカゲル/0.01Mリン酸二水素カリウム・pH5.5)〔核酸塩基〕 *カリクレイン様物質産生阻害活性試験」との記載があり、「製剤中の原薬定量法」の欄(6頁)には、「SARTストレスマウスを用いて鎮痛係数を求める生物検定法による3-3用量検定法」との記載がある。

3 以上によれば、争点3(一)については、原告が原告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法は前記一2説示のとおりであると認められるものの、争点3(二)の、被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法(後発医薬品である被告医薬品の製造承認申請書記載の「規格及び試験方法」は、先発医薬品である原告医薬品の製造承認書記載の「規格及び試験方法」と内容的に同じでなければ、厚生大臣から製造承認を受けることができないか。この点に関する厚生省の審査実務はどうなっているか。)については、証拠上不明という外はない。

争点3(三)については、前記2前段認定の事実によれば、被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法と、被告が現実に業として被告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法とは、必ずしも同じ方法であることを要しない(医薬品の製造業者は、現実に業として医薬品を製造する際、当該医薬品の確認試験の方法を変更することは許される)ものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

第五結語

以上のとおりで、被告が被告医薬品の品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として(本件特許方法に該当する)原告主張のイ号方法を実施しているとの事実は、本件全証拠によるも認められないから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとして棄却を免れない。

別紙 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例